晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「旧約聖書を知っていますか」

 今となっては「食わず嫌い」だったとも言えるのだが、阿刀田高という作家があまり好きじゃなかった。ショートショートなら星新一さんを読めばいいし、時折、雑誌などでお目にかかる阿刀田さんの文章はどこか冗長で、なんかイライラさせられた記憶があったからだ。

 先日、割と近所に新たに古本屋ができていることに気が付いた。普段はあまり通ることのない裏道なのだが、雑居ビルに看板をみてしまったのだ。こじんまりした書店だったが、それとなく自分の趣味と合う本が並んでいる。聞いてみると、数年前から営業していたが、「コロナで閉めていた時期もあって」とのこと。確かにあまり通る道ではないが、書店があるのは大歓迎。寄ったからには何か買っていきたい。しかし現金の持ち合わせはあまりない。で、選んだのが、阿刀田高旧約聖書を知っていますか」「新約聖書を知っていますか」のセット。横浜には結構多いのだが、子どもの幼稚園もキリスト教系だったし、多少知っておいてもいいだろうという判断である。

 ただ、この作家はどうも好きになれないという気持ちもある。読んでみると、予想通り、軽い。削ってしまいたいような余計なことも書いてある。まずは、「『アイヤー、ヨッ』と叫んでほしい」と書いてある。相変わらずだな、ふざけやがってと思いながら、読み進めたら、この「アイヤー、ヨッ」が後で効いてくる。アブラハムの子がイサクで、イサクの子がヤコブで、ヤコブの子がヨセフというのを覚えるための、いわば語呂合わせみたいなものだった。万事この調子。若い時の身の上話みたいなものも余計と言えば余計なのだが、落語のまくら同様、それとなく主題にも絡ませてきている。なかなかの芸達者である。

 モーセヨシュア、ソロモン、ヨブ記など、なんとなくわかりつつも時系列がぐちゃぐちゃ(そもそも聖書がそうなのだが)でわからなかったのが、それとなく筋が見えてきた気がしてきたから不思議である。「やはり、プロだな。この人」と妙な見直し方をしてしまった。

 余談だが、一時期「日本経済新聞」を宅配させていた時に、息子さんと思しき記者の原稿をよく読ませてもらっていた。同姓だし、こうして親父さん(と決まったわけじゃないが)の文章と比べてみると、よく似ているのである。無駄話というか、まくらの入れ方も。文章も遺伝するのか。もしくは父親を尊敬していて文体をまねたのか。いずれにせよ、どちらもなかなか読ませる文章だった。