あまりテレビを見ないのでわからないが、たぶんNHKあたりで取り上げられたのだろう。茨木のり子さんの本が近くの書店に平積みになっていた。彼女の本は、ほぼ読んでいると思っていたが、見慣れない表紙があったので買ってみた。エッセイ集の「一本の茎の上に」。
「自分の感受性くらい」「倚りかからず」などと、背筋がピンと張ったようなタイトルが多い気がする。ノンフィクションライターの後藤正治さんは彼女の伝記に「清冽」という題をつけている。大辞林によると「水が清らかで冷たいさま」を指すそうだが、この詩人への言葉の当て方が上手いと感心した。
この本は、新聞や解説などに書いた文章を集めたものだが、書き下ろしも3割くらいある。金子光晴や吉野弘、木下順二に加えて、韓国の詩人の尹東柱(ユン・トンジュ)や自らの韓国語学習についてなどに触れている。
吉野弘さんの話は面白かった。「祝婚歌」が有名で、結婚式の挨拶でこの詩を引用する人に出くわしたことはあるのでは。私はこれまで二回くらい聞いている。念のために出だしを紹介する。
二人が睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派すぎないほうがいい
立派すぎることは
長持ちしないことだと気付いているほうがいい(以下略)
姪御さんの結婚式に出席できずに送った詩だという。いつしか有名になり、離婚調停で間に入る弁護士もこの詩を使っていたとのことだ。しかし、こんなやさしい詩を書く吉野さんはカッとなって、よく夫婦喧嘩をしていたそうだ。しかもイメージに合わず、結構酒豪だそうだ。親近感がわいてくる。外面がいい分だけ、家ではぶちまけることが多かったと夫人は語っている。「愚か」な分だけ、夫婦生活はうまくいっていたのかもしれない。
一番最近の茨木さんの詩集は、岩波文庫版だと記憶している。刊行されたときは、茨木さんの詩は結構読んでいると思ってスルーしていたが、やはり改めて読んでみたいと思ってしまった。以前読んだときとはまた違った味わいのはずである。