晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「卒業式まで死にません」

 精神科医・松本俊彦「誰がために医師はいる」で知った本。ブログの紹介では書ききれなかったが、著者は、覚せい剤依存症が「快楽」を求めているのに対して、向精神薬などへの依存症患者は「苦痛の緩和」を求めていると書く。快楽に飽きることはあっても、苦痛の緩和に飽きることはない。そして、そのような薬に出会うきっかけを作るのが、しばしば精神科医であるというパラドックスもある。睡眠薬抗不安剤にはまる人たちを「ベンゾ依存症」というらしい。

 で、このベンゾ依存症患者が目立ち始めた理由の一つとして、著者が挙げていたのが「卒業式まで死にません 女子高生南条あやの日記」の存在だ。松本さんの言葉を借りれば、彼女は「向精神薬ソムリエ」。精神科に通う患者として、いろいろな薬を飲んではリストカットを繰り返す。まったく知らない存在だったが、買った本は12刷。ロングセラーと言っていいだろう。1999年に自らの人生を閉じている。享年18歳。南条あやペンネームである。

 知りたかったのは、どのように依存症になったのかという過程だったが、南条さんはすでに知る人ぞ知る存在で、最初のページから立派な依存症だった(そうだろうね)。正直、理解できない(ついていけない)記述が続くが、こちらも同世代の子どもを持つ身。なんとか食い下がる。気に入った薬を貯めるために、医者に大げさに症状を言ってみたり、父に処方された薬をくすねたり。

 太るということにも相当な抵抗感がある。一種の自傷願望みたいなものがあるのか、リストカットや食塩水注射を繰り返し、三つ子と偽ってまでも献血する。精神薬を飲みすぎての健忘体験なども記されている。全体的に明るいトーンで書かれており、実際やっていることと書いてあることのギャップについていけない。あれだけカタカナが並ぶ薬が頭に入っているのだから、相当地頭がいいはずである。文章のリズムもいいし、結構読書家なのかなと思った。

 冒頭に、彼女の父親の言葉が載っている。3歳で離婚して父子家庭。喫茶店を経営しながら娘を育てた。行かせた学校はどうやら私立で、商売人なので会社勤めよりは動かすお金は大きいかもしれないが、さぞ苦労が多かったに違いない。本人が書くように「ボタンの掛け違い」も少なくなかっただろうし、実際、日記にも父への不満が書かれている(公開日記の形式なので、「盛っている」可能性もある)。

 20年前の本とはいえ、いまどきの若い子が考えていることを覗いてみようかみたいな気持ちがあったが、その意味では惨敗である。字面を追っただけで、何もわからない。オヤジはオヤジらしく、分かり合えない存在でいいのかなと居直ってしまった自分がいる。