晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「夢のなかの夢」

 イタリア版「夢十夜」と言ったところか。

 アントニオ・タブッキが巨匠たちが見たかもしれない夢を夢想して、20の短篇にした。巨匠たちとは、ラブレー、スティーブンソン、ドビュッシーフロイトなど。年代別に並んでいて、現代に近づくほど知っている名前が増えてくる。タブッキの彼らに対する批評でもあるのだろう。

 タブッキと聞いて思い出すのは、翻訳者である須賀敦子さん。彼女が邦訳したもので映画化されているのは「インド夜想曲」。映画の内容は、ずいぶん前に見たので細部は覚えていない。いやいや、見た直後でもきちんととらえていなかったような気がする。ジャン=ユーグ・アングラードの顔しか覚えていない気がする。

 いまさらながらアマゾンのレビューを見ると、フェルナンド・ペソアの詩が映画には登場しているそうだ。ペソアならこの本でも触れている。彼はポルトガルの詩人で、タブッキは彼の詩を訳していて、評論も書いているという。この本の訳者の和田忠彦さんによると、ペソアアフォリズムがこの本のところどころに埋め込まれているのだという。こうなると、この詩人を知らない自分は手も足もでない。

 やはり後半の自分もある程度イメージを持っている巨匠たちのオマージュの方が面白い。すべてを楽しめないのは、自分の知識不足だが、ほんの150ページ超えの薄い本ながらも豊かな気持ちにさせてくれる本でもある。いろいろ想像していたら疲れてしまったが、心地よさも残っている。