晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「壁とともに生きる」

 「好きな小説家は?」なんてことを聞かれることがずいぶんとない気がする。少なくとも10年くらい。小説が話題の共通項となっていないことが大きいのだろう。かなり昔だが、入社試験の面接に駆り出されたときは、好きな作家・小説は?なんて聞いた気がする。小説を読まない人が増える一方で、新たな作家は現れてくる。若い作家などはこちらも追えなくなってきている。芥川賞直木賞受賞作品を目を通していたのが懐かしい。

 当時、好きな作家として必ず名前を挙げていたのが、安部公房だ。これが不思議なもので、全集をそろえた途端に、いつでも手元にあるという安心感からか読まなくなった。単行本はかさばるので文庫本も持っていたのだが、本を処分するとなると内容が重なるのを優先してしまうことになる。随分ご無沙汰しているところに、ヤマザキマリ「壁とともに生きる わたしと「安部公房」」という本に出会った。安部公房とまた関係を築きたい。早速読んでみた。

 ブックガイドでもあり、評伝でもある。ヤマザキマリさんはイタリアでこの作家に出会ったそうだ。須賀敦子さんが翻訳した「砂の女」だったという。安部公房といえば、不条理小説。名前が突然なくなったり、アリ地獄の巣のような場所に住んだり。フィクションではあるものの、現実世界と接点があるところをデフォルメしてその世界に巻き込まれていくような感覚を読む者に与えてくれる。社会や人間が持つ普遍性を際立たせ、それが社会に対する批評になっているようにとれる。

 「テルマエ・ロマエ」で知られるヤマザキマリさんという存在は知っていたものの、実はあまり絵柄が好みでなく少し避けていたきらいがあった。年齢が近いせいもあると思うが、考え方も近い気がして親近感を持った。小説ばかり読んでいて、安部公房の生い立ちについてはあまり知らなかったものの、安部作品が生まれた背景を教えてもらった。

 NHKの番組のおかげなのか、書店にはまた安部公房の文庫本が並び始めた。装丁も新しくなっているし、また買ってみようかな。家の人に怒られそうだが。