晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「動物農園」

 今さらながら「動物農場」を読んだ。と思ったら、吉田健一訳は「動物農園」という題だった。もちろん原題は「Animal Farm 」。「A Fairy Story」(おとぎばなし)と副題らしきものがついている。ジョージ・オーウェルの作品の中で、「1984年」以上に邦訳されている作品かもしれない。

 訳者の吉田健一さんは1977年に亡くなっている。彼が残した訳に、ヒグチユウコさんのイラストを加えて再刊した。吉田健一さんは故吉田茂首相の息子である。まさか国葬つながりで再刊したわけではないだろう。ロシアのウクライナ侵攻なり、旧統一教会なり、世の中が混沌としているからだろうか。確かにスターリン的というか、旧ソ連を揶揄しているような小説だが、権力を持ったものが自分だけはルールの外に置いて、自らの影響力を維持させていく図は共産主義だけに当てはまるものではないだろう。

 お話自体は、多くの人が知ってのとおりである。農場の家畜が二匹のブタを中心に反乱を起こしヒトの農場主を追い出して、自分たちで管理経営する農場をつくる。話はそれるが、イヌはなぜか、動物たちの中でも引き続き家畜的な扱いである。オーウェルが生きていたらなぜなのか聞きたいところではある。どこかに語っている文章が残っているかもしれないが。

 「二本足は敵」を始めとして、「動物は平等」「互いに殺さない」「服は着ない」「ベッドで寝ない」などルールを決める。しかし、二匹のブタの意見が分かれ、片方が追い出しにかかる。そして、権力を握ったブタが追放されたブタをネタにしながら、自分の権力基盤を広げていく。まさに、ここらは金日成なり、スターリンなりがやってきたとされる手法。冷戦時代に生きてきた読み手はぐっと力がこもるところであろう。

 古典なので、ほぼネタバレをしてしまっていいと思うが、最終的には自分たちがかつて批判してきた対象と同じことを、自らはルールの例外として、繰り返すという話になっている。笑えない「おとぎばなし」であるが、やはり名作である。食い入るように読んでしまった。