晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「英語のアポリア」

 またまたエッセイを読んだ。1980年代前半に来日したトム・ガリーさんは、東大大学院の教授。そもそもは言葉オタクで、英会話教師や翻訳、辞書編纂者などをやっていた。副題に「ネイティブが直面した言葉の難問」とある。「アポリア」とは、「解決できない難問。一つの問いに二つの相反した合理的解答があること」とのことだ。

  そもそも言葉は深い。日本語だって悩む時がある。英語ネイティブだって、いざ人に教えるとなると悩ましいことが多いだろう。日本語を教える自分を想像してみても、環境によってそれとなく身につけてきたものを、文法を使って理論化して教えるというは骨が折れるはずだ。そして、言葉には必ず例外がある。立川志の輔師匠がよく口にする、「一本、二本、三本」と「本」の発音がそれぞれ違うのを、非日本語話者に理屈として伝えるのは面倒である。

 そのうえに、一つの単語に複数の意味がある時がある。トムさんが日本語学校に通っていた時と思われるが、こんな問題があったという。

問題:「姉はファッションにとてもうるさいので…(中略)。「うるさい」はどういう意味ですか。」

選択肢:(ア)大きな声で話す (イ)細かいことまで気にする (ウ)他の人を批判する

 やはり、日本語学習者には難しいようで、当時の著者は(ア)を選んだ。英語だって、Her success was due to a good scholarship. と Her success was due to good scholarship. と、冠詞 a の有無だけで、前者の scholarship は「奨学金」、後者は「学力」となるそうだ。確かに、冠詞は難しい。英語で書かれた文法書には、英語話者は冠詞を感覚で身につけていることが多いため、しっかりと説明があるものが少ないという。話はずれたが、単語というのは人々のやりとりによって変化していくもので、次第に複数の意味を持つことがある。近年で言えば、「やばい」の肯定的な用法なんかは個人的に違和感があるが、子供世代には普通のことなのだろうな。最近は、少し真似をして使ってみることもあるが。

 章立てで「ネイティブの問題」「native の問題」と別に立てているのも面白い。言葉や英語、英語教育に関心がある人にはぜひ。あまり時間を取らせない本です。