晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「レット・イット・ビー」

 古書店で見つけてさっそく読んだ。タイトルからビートルズ関連と思いきや、著者は若桑みどりさん。「クワトロ・ラガッツィ」は積読のままだったなあ、と思いつつ、いずれは「マニエリズム芸術論」あたりにも手を出しておきたいので、エッセイで人となりを知るのもよかろうと購入。購入時は700円は高いと思ったが、読んでみたら十分に元はとれた気がしている。

 「音楽広場」「サントリー・クォータリー」や新聞などに寄稿したものを集めた本。1988年刊行なので、子連れ出勤で話題になった「アグネス論争」に触れた文章もあった。今なら、育児休暇などの法整備もされてきているし、さほど問題にはならないであろう。元をたどればこの論争が法整備の発端になっているかもしれない。収入減を恐れて自分はとらなかったが。

 専門である美術の話はもちろんだが、ジェンダー、子育てなど、話が古いとは感じない。逆に今なら、時代の後押しもあってもっと強気な発言をされていたと想像する。でも当時は辛口な女性論客という印象だったのではないか。

 「食べることについて」というエッセイが面白かった。確かに西洋には食事のシーンの絵が多い。「最後の晩餐」が欧州では重要な位置づけとされているからか。自分が絵画などに疎いせいもあるが、日本であまり食卓を絵にした作品は見たことがない。このエッセイを締める文章がなかなかいい。「美食学とは、美味なものを食することではない。それは食べることを美しいと思うことである」

 自著を取り上げた新聞書評への反論も面白い。読んでみると、確かに見出しの取り方がひどいと思う(彼女が書いているからだとも思うが)。この頃の新聞は今よりも数段強気だった、というか。いや、傲慢だったというべきか。ちなみに読売の書評もひどかったらしい。ここらへんは、昔「TVタックル」に出ていた田嶋陽子さんを思い出した。たぶん、彼女も意図的に噛みついていたと思うが。

 テレビ東京あたりで放映している昔の映画が、見てみると妙に面白かったという気分と近いような気持ちだった。積読の著作も読まないと。