晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「歴史とは靴である」

 先に、題が意味するところから。本書は、歴史家・磯田道史さんが鎌倉女学院の高校生を相手に行った講義が元になっている。そこで、磯田さんが「歴史はむしろ実用品であって、靴に近い」と話したところからこのタイトルになっている。

 磯田さんの本はそのうち読んでみようと思っていたが、とっつきやすそうな本が古書店に並んでいたので購入。生徒相手に歴史に興味を持ってもらおうと多少ハードルを下げた講義だと思えるが、単純に面白い。こちらも生徒レベルではある(講義後の質問はしっかりしたものだった)。鎌倉女学院鎌倉駅から由比ガ浜方面に向かった途中にあったと記憶する。鎌倉にある学校はだいたいそうだと思うが、鎌倉ゆかりの歴史のことを学ぶ機会を設けるようにしている。講義の場所としてはうってつけと言えるかもしれない。

 講義は、磯田さんが歴史に興味を持ったきっかけや、さかなくんと仲の良いことなど、くだけたエピソードを交えながら、歴史の見方を生徒に伝えている。相当こなれている気がする。

 ハッとさせられたのが、1700年ごろの世界における日本の人口の割合は5%だった。つまり20人に一人は日本人だった。それが今では200人に一人になっているそうである。人口が増加している一方で、日本の少子化は進んでいる。経済規模を収縮されていくことを考えると、2050年にはインドの4分の1くらいの経済規模になると試算されているらしい。広い視野でみると、なかなか恐ろしいことではある。

 刺さった言葉は「教養とはムダの別名である」。ムダとは書いてあるが、本当にムダではないのだろう。磯田さんは好きな作家の内田百閒の言葉を引用して、「一回覚えて忘れた状態を教養」と強調しながら、バカバカしいものに物事の本質がある時もある、ムダを大事にできるようにしないといけないと話している。後の話につなげると、学問の総合力を大事にしようということだろうか。「減点されないよう人の顔色をうかがう忖度が蔓延しない」ように教養を身につけていこうと生徒たちに伝えている。近年、文系の学問が軽視されてきているけど、本当に大事だなと思う。

 そのほか、対談が2篇。薄いながらも心に残る一冊となった。