晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「ライオンのおやつ」

 小川糸さんが書く本には、愚かな人や弱い人は出てくるが悪い人は出てこない(態度の悪い人は出てくる)。これまでもそう思っていたが、「ライオンのおやつ」を読んでその思いを強くした。30代ながら余命宣告を受けた海野雫が「終のすみか」と決めたのは瀬戸内の島(レモン島)のホスピスホスピスの名が「ライオンの家」である。

 そのホスピスには、毎週日曜日に入居者がリクエストできる「おやつの時間」があるーー。と、ここまで読んだところで、このような話を知っているなと思った。青山ゆみこさんが書いた「人生最後のご馳走」だ。こちらは、大阪の淀川キリスト教病院が毎週土曜日に患者から夕食のリクエストを受け付けていて、その患者や提供された夕食を紹介するいわばルポだった。

 「ライオン」の作家・小川さんがこのことを知っているかどうかは別として、「ライオンのおやつ」は見事に小川ワールドで、死に向かっている話なのになぜかほっこりとさせられる。この本そのものが、ホスピスのような役割を果たしているような気がしてくる。

 「ツバキ文具店」「キラキラ共和国」もそうだったが、いわゆる脇を固めている人たちが魅力的だ。わざと覚えやすい名前をつけているのだろうか。小説のテクニックの話かもしれないが、登場人物のキャラと名前が整理しやすいのだ。スーッと読み手の頭の中に入ってくる。

 「おやつ」のリクエストが受け入れられるのと、「旅立つ」タイミングはシンクロしているようである。入居者それぞれの人生が映し出され、かつホスピスで働く人たちにもドラマがある。

 死を受け入れるのと、生に固執するのはけっして矛盾しない、と思った。