晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「今を生きる思想 宇沢弘文 新たなる資本主義」

 講談社現代新書が昨年の夏過ぎあたりから、内容を100ページくらいして、やや安価にした「講談社現代新書100」というシリーズを始めた。思想ものを一気読みさせるというコンセプトのようだ。紙の本だと税込み880円でやや水増ししている感じがするのだが、電子書籍ではワンコイン以下(499円)で買える。端末を持っている場合は明らかにこちらがお得だ。

 すでに「ショーペンハウアー」「ハンナ・アレント」(人名は、このシリーズに従った)を読んでいるが、考えがまとまらないので、まずは「宇沢弘文」を取り上げる事にする。筆者は、元新聞記者でフリーランスの佐々木実さん。このほかにも宇沢本を書いている。というよりも、その実績から今回の筆者として声がかかったのだろう。

 宇沢さんの代表作の一つ、「社会的共通資本」はまだ積読のまま。経済に弱い人間なので、この本から読んでみようと思った。社会的共通資本とは、「ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力のある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置だそうである。この共通資本には、「自然環境」に、道路、水道、ガスなどの「インフラ」、教育、医療、文化などの「制度資本」が含まれるという。

 近年にやたらと耳にするSDGsに考え方が近いのではないか。宇沢さんは2014年に亡くなっているが、時代が宇沢さんの考えに追いついてきたように思える。この本は、宇沢さんの評伝であり、彼の考え方を記している。正直、経済学の部分はあまりわかっていないのだが。

 1928年の生まれだが、10代には反軍国主義の考えを持っていたという。それでも5年制の中学を戦時措置で4年で卒業。勤労動員で潜水艦のスピード計をつくる向上で働いた。戦後、東大に入学して数学を学ぶが、河上肇「貧乏物語」を読んで経済学者を志すようになる。「富を求めるのは、道を開くためである」という言葉を心に刻み、戦争で荒廃した社会を癒やす「医者」になるためだ。

 スタンフォード大のケネス・アローに認められ、米国での研究活動。「経済学」で有名なサミュエルソンも高く評価していたという。シカゴ大教授に36歳で就任。しかしベトナム戦争への憤りで日本に帰国する事になる。しかも東大の助教授で。

 その後は、不平等や水俣病、成田空港の問題など、行動する経済学者として活躍。数学の本も書いていて、わかりやすいと評判である。毎度毎度のことであるが、存命中にもっと気にかけて著作などを読んでおけばよかったという気にさせられた一人である。