晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「将棋指しの腹のうち」

 先崎学九段。文筆業でも活躍している将棋棋士である。プロ棋士のエピソードや人柄などは彼の筆を通して知ることが多い。将棋界とファンの橋渡し役とも言える。先日の王将戦藤井聡太王将に挑んで敗れた羽生善治九段について朝日新聞(読んだのはデジタル版)の文章も良かった。この本でもわかることだが、先崎九段と羽生九段は同い年で付き合いも長い。羽生さんに話しかけるような文章に敬意と友情を感じた。そして、うつ病に苦しんだ先崎九段の復調ぶりも、これまた嬉しい。

 近年、対局中の棋士が何を食べたのかという「将棋メシ」「勝負メシ」が話題だが、この本では対局中のメニューも含んでいるものの、千駄ケ谷にある日本将棋連盟周辺の棋士たちがよく通う店やその料理、酒がメイン。切り口自体はお店なのだが、棋士たちのエピソードがメインである。いわば失敗談が多いのだが、実名が出ているのはすべて仲の良い棋士だけとのことである。

 自分が社会人になった昭和後半とトーンが似ている。自分の給料では酒が飲めなかった時代に、対局に勝利した大物棋士を「ヨイショ」して食事や酒をおごってもらったり、なんとか銀座や赤坂に誘導しようとしたり。考えてみれば、自分のお金で鰻を食べたことはほぼないなあ(「すき家」ではある)。競馬に勝った先輩におごってもらっていた。築地の「丸静」には何回か連れて行ってもらった。食べログによると閉店しているようだ。すごく残念。話が昭和チックになるが、おごられたものが次の世代をおごっていくという時代だったなあ。段々とそのような関係性が薄れていくのは残念だが、世の中も多様化していくのでしょうがないか。会社という柱がかなり細くなってきた気がする。金銭面では大事だが、生活において。

 ノスタルジックな話で埋められているが、この本でやはり感じるのは羽生さんとの距離感。お互いいろいろな形で将棋界を支えてきたのだなあと改めて感心した。羽生さんと先崎さんも自分よりも年下なんだな。

 美味しいそうな店を紹介した本だが、この本自体は160ページほどで「おやつ」程度。先崎さんにはまたいろんな将棋界の話を書いて欲しい。