片岡義男さん。映画化されるようなトレンディな小説を書く人というイメージがあるが、語学エッセイもいくつかある。この本は簡単に書くと、いかにも日本語らしい口語表現を、英語らしく表すとこうなりますよと片岡さんが解説してくれる本だ。解説と書いたが、片岡さんは英語学習指導が本職じゃないから、参考書のように日本語のこの部分は英語でこうなりますという解説ではない。むしろ、日本語ー英語間をスムーズに移行できない言葉なんかを集めている。
過去に英語関連の本を読んだことがあり、片岡さんは相当な英語の使い手だと思っている。かなりネイティブに近いというか、そこまでじゃないにしても、相当なネイティブ感覚を身につけているのではないか。この本が英語の勉強になるのは間違いないが実践に移そうとしなければ、料理に例えるなら、すごい料理人の料理に感心して終わりそうだ。ふせんを貼っていこうと思ったが、逆にふせんだらけになるとふせんの意味がなくなると思い、あきらめた。
項目としては100に届かないくらいの日本文を英文にしている。いずれも話し言葉で、普段口にしたり耳にしたりするのが多い文章だ。TVのリポーターやアナウンサーが相手に振る言葉で「そのへんはどうですか」。端的な言い方は、What can you tell us?。しかし、さらに理解するための材料がありますかというシチュエーションなら、Can you shed any more light on that? 。取材者側の視点で、Is there anything you can add to that in your angle? と言えるらしい。
「あなたはどちらの意見をお採りになりますか」。二つの意見なら、Which side do you come down on? だそうだが、いろんな意見が出ているのなら、Where do you come down on all this? 。片岡さんは、「all this というものすごく簡単な言いかた」で全体を見渡す状況が表されていると書いているが、この all this なんで学校英語はお目にかかれないのではないか。単語そのものは確かに簡単だけど。
参考になる例文が多すぎる。「彼女はなにごとも手を抜くことのできない人だから」は、She is incapable of giving any project less than her best effort. だそうだが、この less than her best effort なんて表現、普通の学習者には出てこないよなと読んでいてぼやきたくなった。
この本は税抜きで780円。初中級の英語学習者にはちょっと難しいところもあるが、英語話者の発想が少しでも身につくのなら安い買い物だとも思える。項目は半分でもいいから、もうちょっと解説がほしいと思った。たぶん、同タイトルで「単語篇」もあったはずだが、こちらも文庫化してくれるのか。