晴走雨読 横鎌日記

無理しないランニング(最近ちょっと無理している)と気ままな読書について綴ります。横浜と鎌倉が中心。映画やお出かけもあり

「あなたと原爆 オーウェル評論集」

 20世紀後半に毎日のように新聞に載っていた「冷戦」(Cold War)という言葉は、ジョージ・オーウェルが1945年に書いた、この本の表題作となっているエッセイが初出らしい。本の注釈でも、超大国間の戦闘なき対立状態という意味で使ったのは、彼が最初だと書いてある。恥ずかしながら、この本で知った。その後、米大統領顧問のバーナード・バルークや「世論」などで知られるリップマンによってこの言葉が定着したようだ。実際に闘う「Hot war」に対比する形でできた言葉なので、オーウェルによる造語とまで言い切れないところはあるだろう。

  1945年の10月に書かれたエッセイなので、広島・長崎に投下された原爆による惨劇については耳にしているだろうが、まったく感傷的な文章ではない。広島はおろか日本という単語も出てこない。「原爆」という兵器を持つことによって生じる大国のパワーバランスについての文章だ。その文脈で「冷戦」という言葉で出てきて、このような言葉で締める。訳は秋元孝文・甲南大教授だ。「原爆は、大規模な戦争の時代に終わりをもたらす可能性が高い。その代償として我々が手にするのは、いつまでも延長されていく「平和なき平和」の状態なのだが」

 さすが「1984年」の作家と言うべきか。「大規模の戦争」というのが大戦レベルの話だったら、今のところ「予言的中」である。オーウェルの評論やエッセイを集めて「あなたと原爆」を表題に決めたのが、出版社サイドなのか訳者なのかはわからないが、日本が被爆国であることが一つだと思えるし、「1984年」と未来を予言したようなディストピア小説と、このエッセイがシンクロした部分があるところからだとも思える。

 たまたまだが、「ジョーンの秘密」(原題:Red Joan)という8月日本公開の映画を見せてもらった。ポスターの惹句を借りれば、「イギリス史上最も意外なスパイ」の話だ。実話をもとにした小説の映画化なので、事実からは多少離れているかもしれない。映画評や感想文でもないので詳しく書かないが、主人公(ジョディ・デンチ。回想部分は、ソフィー・クックソン)は原爆投下を知って自分の仕事について、大きく揺さぶられるのだ。もしかしたら、オーウェルの記事を読んでいたかもしれないと思った。

 本に話は戻るが、この「あなたと原爆」はオーウェルの評論については、ベスト盤みたいな内容だ。「象を撃つ」「なぜ書くか?」を収録。個人的には、Ⅲに収められた「ナショナリズム覚え書き」「イギリスにおける反ユダヤ主義」(どちらも1945年)の内容に、つい最近書かれたかのような錯覚をおぼえた。