晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心にお出かけもあり。銭湯通いにはまっています

「成瀬は信じた道をいく」

 本屋大賞「成瀬は天下を取りにいく」の続編「成瀬は信じた道をいく」を読んだ。自分の年齢を考えるとやや縁遠い作品のようにも感じられるが、何せ読後感がいい(読んでいる最中もいい)。読んでいるとドーパミンが分泌されている気になる小説なのだ。「成瀬は天下を取りにいく」を読みおえた時には続編を読むことに決めていたが、完結編も文庫で出た途端に読むことになるだろう。成瀬あかりというキャラにはまっている一人である。

 さて、これだけ売れている作品の主人公についての説明は必要だろうか。簡単にすますと、成瀬あかりは地元を愛する大津市在住の高校生(2作目の二つ目の短編で大学進学)。思い込んだら(というほどの力みはない)実行型、空気を読めない部分はあるが納得したら妙に素直なところもある。高校生ながらM-1に挑戦したり、髪ののび具合を調べるために丸坊主にしたり。超がつくほどマイペースというべきか。一度見た名前を忘れないという〝特技〟と、京都大学に難なく入れる学力がある。

 1作目が成瀬というキャラを根付かせるエピソード集だとすると、2作目は、新たな人物を登場させ成瀬に関わらせる「展開」型と言える。5編すべてが関わる人の目線から書かれている。「ときめきっ子タイム」は、成瀬の小学校の後輩が、成瀬と島崎みゆきが結成したお笑いコンビ「ゼゼカラ」のファンで、この二人をテーマに「調べ物」の課題を仕上げていくという話。2編目は親の目線で成瀬の京大受験を見守る話だが、YouTuber が絡んでくるところが唐突なのだけれども、そんなことあるって話が成瀬にかかると普通の話に読めていくのが妙に面白い。

 3編目に登場するバイト先のクレーマーも、クレーマーがポジティブに処理されるところが新鮮。クレーマーも本人はクレームをやめたいと思いながら、ついついかみついてしまうという設定がこれまた新鮮。もしかしたら、作家の宮島未奈さんにもそんなところがあるのでは。

 表紙と絡むのでメインの話ともとれるのが、4編目でここで成瀬がびわ湖大津観光大使に選ばれる。5編目で成瀬が失踪。大みそかに「探さないでください」の置き手紙を残して、しかもスマホも家において成瀬が姿を消す。ここまでの4編に登場した人間が絡み、ラストは大団円。「失踪の理由」に他意がなさすぎてほっこりされてしまう。

 作者の宮島さんは静岡出身ながら大津が長いとのこと。インタビューを読むと「大津愛」も十分にあるようだ。成瀬と同じく京大出身(学部は違う)。成瀬は地元を知らしめることを目的にしているが、その意味で宮島さんすでに大きな仕事をしている。

 実は滋賀県には一度足を踏み入れただけ。「草津でサッカーやるんだけど行かない?」と言われ東京駅前に集合したら、群馬の草津じゃなくて滋賀県の草津に連れて行かれたというオチがつく。だから立派なバスだったのか。30年くらい前の話だ。

 文庫版には、成瀬とめぐる「びわ湖さんぽ」に、ミルクボーイ・駒場さんの解説がついている。