晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「DO YOU SPEAK FOOTBALL?」

 世界で一番さかんな球技はサッカー(この項では書名に従い、この後は「フットボール」で統一)だろう。世界大会の予選の規模の大きさや情報量、動く金額の大きさからそう判断してもいいはずだ。

 副題なのか、タイトルに含むのかわからないが、「世界のフットボール表現事典」とある。フットボールの技術やよく使われる表現を各国(地域)別にまとめたものだ。例えば、ボールを相手の両脚の間に通して相手をかわす、いわゆる「股抜き」は、20種類の言葉で載っている。国や民族にかかわらず、いかに「屈辱的」なのかが伝わってくる。自分も、股抜きをされたらムキになって追いかけて、ファウルでもいいから止めにかかるタイプだった(ポジションはディフェンダー)。ハンガリーでは「エプロン」(カタカナ読みでは「ケテーニ」)と表現されるとのことだ。エプロンをつけていれば「股抜き」されることはなかったのにという逆説的な視点からついた名称らしい。

 やはり、「強国」とされる国の言葉が手厚い。著者(トム・ウィリアムズ)も英国人のようだし、そこらはしょうがないだろう(読んでいると楽しい)。日本の言葉として紹介されているのは、「永久欠番」「勝ち星をあげる」「泥臭い」などの表現だ。「永久欠番」はたぶんプロ野球の影響だろう。思い浮かぶのは、横浜Fマリノス松本山雅でプレーした松田直樹選手の「3」。横浜では永久欠番、松本では今季は空いているようだが、空き番号なのか。「勝ち星」という言葉も日本独特かもしれない。相撲の白星、黒星、金星あたりの影響か。筆者(編者)にはロマンチックに捉えられるらしい。

 「股抜き」並みに多いのが、ゴールマウスの隅に決める得点に関する表現。イタリアでは、ゴール右上隅に決めた得点を「7(セッテ)」と呼ぶとのこと。確かに、あそこはバーとポストで7に見える場所である。右側に限らないが、米国では「Upper 90」と言うとのこと。なんかスノーボードがなんかの技の名前のようだ。ブラジルでは「フクロウの寝場所」。シュートを含めるか、単に隅を指す言葉で分かれるかもしれないが、面白い。

 DFをそろえて守備を固めるのを、モウリーニョが「Park(ing) the bus」(ゴール前にバスを止める)と表現して、英国では定着しているが、エクアドルでは、ゴールにぶらさがるコウモリをイメージして「コウモリ戦術」と呼ぶとのこと。おなじく同国では、イエローカードによる累積出場停止ギリギリにいる選手やスタメンの座が危ない選手を「教会にいる」というそうだ。ちょっと詩的な気がしている。

 例を挙げるとキリがないのでこのくらいにしておくが、日本の出版社であるイーストプレスはよくぞこの本を翻訳してくれたと思ってしまう。これで1700円は安い。それぞれの国の言葉も載せているのでフォントを揃えるのも大変だったはず(正確かどうかは判断できないが)。翻訳の堀口容子さんも、単に訳するにとどまらず、日本向けに言葉を加えてくれたようである。感謝する。