晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「親愛なるレニー」

 「不機嫌な英語たち」を書いた吉原真里さんに、日本エッセイスト・クラブ賞河合隼雄物語賞を受賞している作品があると知って、後追いで読んだ、「親愛なるレニー レナード・バーンスタインと戦後日本の物語」。初小説となった「不機嫌」も良かったが、こちらはしっかりしたノンフィクションで、丁寧に書かれていると感じた。

 ハワイ大教授である吉原真里さんは、冷戦期の文化政策の日米比較分析のために、米議会図書館でレナード・バーンスタインの資料を閲覧しているときに、名も知らぬ日本人からの書簡を目にした。そもそもバーンスタインの遺品や資料は個人のアーティストとしては世界最大級らしく、40万点もあるそうだ。それこそ著名人からの手紙ならともかく、ほぼ知られていない日本人2人からの手紙が結構な量を占めていたという。吉原さんが閲覧申請を出して、2人の手紙を読み始めた。天野(旧姓上野)和子さんと橋本邦彦さん。天野さんは1947年に最初のファンレターを送った筋金入りのファンと言えるだろうか。英語も達者で、良き理解者になった人だ。レニーが家族を招待するなどプライベートでも会う関係になった。橋本さんはバーンスタインと恋愛関係にあり、その後、マエストロの意をくんで様々なイベントの実現に奔走した人である。実は、橋本さんの書簡は非公開扱いだったが、運命のいたずらなのか、手違いで吉原さんの目に触れることになった。プライベートが公になるのは相当に抵抗があっただろうが、橋本さんが書籍化に許容し、この本を読めたことに感謝したい。吉原さんの真摯なアプローチが功を奏したのではないか。ちなみに吉原さんはこの本を英語で出している。英語で刊行したのが2019年で、自ら日本語にして2022年にアルテスパブリッシングから出版している。

 二人からの手紙が軸だが、バーンスタインの人生、日本の戦後復興や世界的には冷戦期ともシンクロしている。日本のクラシック受容の流れもつかめる。バーンスタインが愛された理由がよくわかる本になっている。小澤征爾さんも「人たらし」だそうだが、師匠のレニーもなかなかのもの。しかし、かくも核廃絶に積極的だったとは思わなかった。バーンスタイン作曲は「ウェストサイド物語」くらいしか知らないので、彼が作った交響曲も聴いてみるつもりだ。タイトルからするとちょっとシリアスな感じがするけど。