晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「単語帳」

 「開墾地」で芥川賞候補になったグレゴリー・ケズナジャットさんの最新作「単語帳」を読んだ。一応「本」という体裁なのだろうけど、短編1作程度の分量でまとめられている。書店で見たが文庫より小さい冊子だった(自分はKindleで読んだ)。版元は動画配信サービスのU-NEXT。出版業もやっているのか。

 母語ではない日本語で書く白人系の男性というと頭に浮かぶのが、リービ英雄さんやアーサー・ビナードさん。ケズナジャットさんは外国語補助助手(Assistant Language Teacher = ALT)として日本に来て、同志社大学大学院で学んだ。高校時代から日本語を学び始めたという。その後、法政大学グローバル教養学部准教授として職を得ている。

 この「単語帳」は、著者が居を東京周辺(詳しくはわからないが)に移した後が舞台になっている。主人公は神楽坂周辺を巡るようになったある日、飲み屋で外国人と出会う。どうやら米国の同郷の輩らしい。同じ方言で話す。久しぶりに懐かしい言葉(英語)で話ながら、酒を飲む。相手は「旅行者」と名乗っていたが、海外観光客ではなく、愛知をベースにして日本国内を旅行しているとのことだ。その相手が相手が、こんな提案をしてくる。「ここからは日本語で話さないか」と。相手は翻訳家として活動して、「モフモフ」という言葉の翻訳でつまずいていると話す――。

 作品紹介から外れるが、青山ブックセンターで開催されたイベントでケズナジャットさんの話を聞く機会があった。そもそもお目当ては「不機嫌な英語たち」を書いた吉原真里・ハワイ大教授だったが、吉原さんが対談相手として指名したのが、ケズナジャットさんだったのだ。イベントの存在を知る前には芥川賞候補になったことも知らなかったが、それだけに興味が湧き、帰りに「開墾地」を購入して帰ったのだ。「開墾地」を読んだ後、短いので「単語帳」も読むことにしたのだった。「開墾地」についてもいずれ書く。

 言葉に関わる小説で、英語など第二言語学習者もうなづけるような作品になっている。「開墾地」が静かな(勝手ながら芥川賞候補らしい)作品だったが、こちらはどこかユーモラスで、とっつきやすい。

 作品とは離れるが、このような短編一編を書籍化する方式は、これからも出てくるのだろうか。U-NEXTが会員に無料で読めるように提供しているそうだが、コーヒーショップで1杯か2杯くらいで読める分量(個人差はあるだろうけど)だ。Kindleでは250円。短編集の1編分と考えると高いのか安いのか。他の作家の作品もある。

 これは、デビュー作「鴨川ランナー」も読んでみないと。