晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「むらさきのスカートの女」

 今村夏子「むらさきのスカートの女」を読んだ。彼女の本はこれで4冊目。もしかしたら、ファンなのかもしれない。この作品は芥川賞受賞作で、これまで読んだ3冊に比べると、ぐっと読みやすい。頭の中にスイスイ入っていく感じである。書いた本人はそんなに意識していないかもしれないが、輪郭がはっきりしている気がする。

 もちろん主人公は、むらさきのスカートを穿いている女である。

小柄な隊形と肩まで垂れ下がった黒髪のせいかもしれない。遠くからだと中学生くらいに見えなくもない。(中略)頰のあたりにシミがぽつぽつと浮き出ているし、肩まで伸びた黒髪はツヤがなくてパサパサしている。むらさきのスカートの女は、一週間に一度くらいの割合で、商店街のパン屋にクリームパンを買いに行く。

 中年以上の横浜在住者は、「白いメリーさん」を思い浮かべるのではないか。「むらさきのスカートの女」は娼婦ではないが、本人以上に周りが動向を気にしている存在という意味では似ている。話が進むにつれて、そんなに謎な存在ではないというのがわかってくる。次に思い浮かんだのは、「ちびまるこちゃん」の野口さんである。

 読者はすぐに気づくと思う。むらさきのスカートの女よりも気になる存在を、だ。それは、この物語の話者である。「黄色いカーディガンの女」と呼ばれているらしいが、なぜそこまで、むらさきのスカートの女を監視しているのがよくわからない。「むらさき」は気づいてないようだが、なかなかのストーカーぶりである。

 ある高級ホテルの清掃係として働く事になった、むらさきのスカートの女。ここから話が大きく動き始める。意外な順応力を見せ始め、時給も上げていくのだが――。ここらへんから、話がどこに行くのかわからなくなる。その意味で、相当楽しませてもらった。映像化するなら、江口のりこが適役だろうか。黄色いカーディガンの女は誰がいいだろうか。

 文庫本には、各紙誌に執筆した芥川賞受賞記念のエッセーが収録されている。今村夏子という作家を理解する一助になる。