晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「不機嫌な英語たち」

 学習書の一種と思ったら、小説だった。著者は、ハワイ大教授の吉原真理さん。半自伝的私小説となっている。「ふぞろいな林檎たち」のもじりのようなタイトルだが、「英語」「言語」に関わる小説だ。ある程度は「真実」と考えられるので、自分をさらけ出した一冊とも言える。ちなみに吉原さんの専門は、アメリカ文化史、アメリカ=アジア関係史、ジェンダーとのこと。

 主人公は「吉原真理」として描かれている。ニューヨーク生まれだが、日本で日本語を習得して、また米国に渡っている。父親の仕事がらみのようだ。生まれのせいなのか、小学生ながら英語の素養を感じさせる描写もある。小学校5年で父の仕事で転勤。最初は英語で苦労させられるものの、親以上に話せるレベルになるのにさほど時間はかからなかった。そうなってくると、自分を「こちら側(米国)の人間」として、母親が公に日本語で話しかけてくるのも嫌がるようになる。

 自分と同じように親の事情で転校してきた日本人につらく当たったり、交換留学でやってきた日本人学生にもつっけんどんな態度をとる。ここらはかなり意地悪だ。英語を流暢に話せるという優越感、英語力による距離感を見せつけるような形だろう。

 成長するに従いそれほど尖った調子ではなくなり、アジアなど英米以外にルーツを持つ人に対する態度に敏感になる。こちらは差別的ではなく、むしろリベラルな感じである。ものさしは、やはり「言語」。自伝的な作品ながら、言語とアイデンティティーの関係を考えさせられた。

 日本語の章(英語も結構入っているが)の間に、英語の章が入っている。当初、英文をあしらった章の仕切りだと思っていて、実は読み飛ばしていたが、目次を読んだら、この部分もしっかり本の一部だった。字があまりに小さく、老眼鏡を使っても読むのに苦労したが、この部分もしっかり物語になっているので、読み飛ばさないようしてほしい。

 帯に水村早苗さんからの推薦文が書かれている。なるほど、バイリンガル小説「私小説 from left to right」なるものを書いた人だし、推薦のことばにこれ以上相応しい人はいないだろう。何冊か家にあるはず。読んでみようっと。