晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「英語達人列伝Ⅱ」

 日本における英語教育は迷走していると言っていいかと思う。英語ができる人は増えているはずだ。NHKでおなじみの杉田敏さんも、昔と比べてできる人は相当増えたと感じるとおっしゃっていた気がする。コロナ禍や円安の話は別にして、海外旅行は当たり前になり、留学先と聞くと英語圏が浮かぶし、それこそ世界を股にかけるような企業で働く日本人も増えている。だが、いざシステムとして学校教育に落とし込もうとするとなんかうまくいかない。

 この本の著者である斎藤兆史さんは、成功例に学ばないからだと主張する。日本にいながら(のちに留学などをしても)、英語力の基礎をきっちり磨き上げ、英米人をしのぐ英語力を身につけた先達は少なからずいると。それで約20年前に出た「英語達人列伝」で紹介されたのが、新渡戸稲造岡倉天心西脇順三郎斎藤秀三郎ら10人。この本はその続編で、嘉納治五郎夏目漱石南方熊楠杉本鉞子(えつこ)、勝俣詮吉郎。朱牟田夏雄、國弘正雄、山内久明の8人が登場する。漱石は英語教師だったし、南方熊楠は博覧強記という雰囲気なので英語ができても不思議ではない。勝俣さん以降は英語や英語教育に興味がある人ならまず知っている面々。杉本さんはノーマークで、嘉納治五郎さんについては英語ができたの?って感じだ。存命なのは、山内さんだけ。

 当たり前だが、動画サイトがあったり、リンガフォンがあったりという時代に学んだ人たちではない。近くに英語塾もなかったであろう。それでも、「Ⅱ」に出てくる人たちは、英語圏の人と接する機会はあったようだ。

 勉強法は今からすると地味である。南方熊楠は辞書を引き引き翻訳をし続け、國弘は教科書をひたすら音読。音読は少なくても500回というから相当な気力の持ち主である。やはり語学って、ある高みまで上り詰めるにはそれなりの努力が必要だというのがよくわかる。それでなくとも英語は日本語からは遠い言語である。鳥飼玖美子さんがよく例に出す話だが、米国務省では日本語は難易度は最難関とされ、一定程度話せるようになるまで88週(2200時間)は必要とされている。その逆を行くとなると、英語学習は困難で当たり前なのである。

 結果的に著者である斎藤さんが言いたいところは、たぶんだが、英語は難しいのだから簡単に身につくと思ってはダメよ、ということ。日本の英語教育ってどこか腰が据わっていない気がするのだ。グローバルな競争力とやらを主張する経済界の要請で左右されるからだろうか。もっと教育という目線を軸にしないと。語学ビジネスは数千億の市場規模があるという。なんかそこだけが膨れあがっている気がする。