晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」

 ジュンク堂店長を務めていた福嶋聡さんの400ページを超える大著。著者紹介で「2022年まで難波店店長をつとめる」と書いてあるので今は何をしているのだろうと思いつつ、1959年生まれなので職場は「ご卒業」されているのかもしれない。発信力のある書店員としてインタビュー記事や文章は読んだことがあるが、著書を読むのは初めてだ。

 結論から言うと福嶋さんはヘイト本を棚から外さない。近年、いわゆる「町の書店」が減ってきたが、逆に個性的な書店の開店も目にする。そのような小規模書店は売り場も限られているし、セレクトショップのように店側のチョイスで本を並べている。その結果として、ヘイト本が棚から外れるのはアリだろう。自分とてわざわざ読みたくない側の人間ではある。

 しかし、福嶋さんが務めていたジュンク堂クラスの大型店となると話は別だと思う。そりゃ、宗教関係の本もあれば、主義主張の強い本もある。「売らんかな」の姿勢で購ターゲットを絞った本だってある。

 ヘイト本を置けば、対象となっている人が書店でその本を目にした場合に傷ついてしまうことがある。それでも、福嶋さんはそのような本を「棚から外す」ことはしないのだという。書店は小売業だし、当然ビジネスである。売れる見込みのある本を売ったり、商品として揃えたりするのは当たり前とも言える。商売なのは原則として、福嶋さんの姿勢は、「書店=言論のアリーナ」なのだ。福嶋さんは「安全地帯」という言葉を使っているが、簡単に言えば、本のある場所として多様な考え方が守られるべきだというところにある。もちろん、福嶋さんはヘイト本が主張する内容に反対する立場である。

 もう少し踏み込めば、これらの本は批判されるためにも読まれるべきという部分もある。例の一つとして、オウム真理教の事件の時にも、その教義が載った本を返品せずにあえて置いたそうである。そうすると、社会学者たちなのかどうかは忘れたが、大学の研究者が一斉に買っていったそうである。本は検証のためにも存在している。

 福嶋さんはその「言論のアリーナ」をこの本を使って実行しているようだ。ヘイト本などへの反論は、書店員だった人らしく数多くの書籍や、書店イベントで経験したことを材料としている。その意味では、一種のブックガイドとも言える。書店員なので「持ち屋」「専門家」とも言えるが、能動的な姿勢じゃないと読めないのが本であることを考えると、恐ろしい読書量である。驚きました。