晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「酒場學校の日々 フムフム・グビグビ・たまに文學」

 草野心平さんが表紙で笑っている。昨年、草野心平生家や記念文学館を訪ねた自分にとっては気になる本であった。そして舞台が新宿ゴールデン街とくれば、読まないわけにはいかない。今でこそ縁遠くなったが、よく通ったところである。

 金井真紀さんはテレビ番組の構成作家。著書紹介には、酒場のママ見習いなどを経て、2015年から文筆業・イランストレーター・文筆業、と書いてあるが、その「酒場のママ見習い」時代の話らしい。草野心平作品で卒論を書いた金井さんは、草野心平ゆかりの飲み屋「酒場學校」に客として通い始め、のちにカウンターの内側を任されるようになる。そのママの禮子さん、訪れるお客さんたち、ママの回想なども交えながら書かれた文章だ。詩だけで食べていけなかった草野さんは飲食店を営んでいた。そこで働いていたのが禮子ママだ。

 自分が通っていた時期よりは少し後の話。そう考えると、一度入ってみたかった。行く店はだいたい決まっていて、客や店の主人と飲み直す時に新たな店に行くような形だったので、正直覚えていない店も多い。当時は、草野心平という詩人の存在だけを知っていて、ほぼ読んでなかった。地元の詩人だと知ったのも、東日本大震災の後だ。

 面倒くさい客(自分もそうだったか)、けんか、ギターの流し、ふとあらわれる作家たち、とちょっとした緊張感もあり、わくわくしながら飲んでいたものだ。難しい話にはついていけず、全共闘世代の人には説教されるなど、居心地が悪いときもあったのはあったが……。

 話は、禮子さんとカウンターに座る客の話が中心。気むずかしいインテリさんや作家の面倒をみる懐の広い編集者など、いかにもゴールデン街らしい話を読ませていただいた。昔ほど懐事情はよくないが(その分早く酔えるようになっているが)、もうちょっと暖かくなったらふらっと寄ってみようか。まだ、やっているかな。

 草野心平さんの「火の車」(屋号です)時代の献立が紹介されていた。

満月(卵の黄身の味噌漬け)

白夜(キャベツとベーコンが入った牛乳ベースのスープ)

どろんこ(かつおの塩辛。柚子とパセリ)

五月(きゅうり、うど、玉ねぎの和え物、カレー味)

麦(ビール)

泉(ハイボール

息(サイダー)*抜粋

 1950年代のメニューだそうだが、なかなかしゃれているではないか。本を読んで後悔したことがある。いわき市にある草野心平記念館には「火の車」を再現したスペースがあり、店内の様子やメニューなどを写真におさめていたのだ。しかし、写真撮影は禁止だったので(後で気づいた)、自発的にすべて削除して会場を出たのであった。一枚くらい残しておけば良かったと後悔している。