晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「井坂洋子詩集」

 この詩集を読んだ後に井坂洋子さんのことを調べてみたら、伊藤比呂美さんとともに女性詩をリードしてきた人だということがわかった。ハルキ文庫が比較的多く詩を扱うとは言え、詩集を文庫で出せる詩人はすでに知られた存在であることは予測できた。読んでみて、ちょっと一息。なんかすごいものを読んでしまった気がしている。一方で新しい物体に出会ったようなワクワク感。

 詩としてはこれまで読んだことがないスタイルと思える一方、数十年前だったか倉橋由美子さんの文章を読んだときに生じた感覚に近いような……(だからって似てるって意味ではない)。文章は日常的な言葉が並ぶのだけれども、わかりやすい言葉に素直についていくと、いつの間にか別な世界に連れて行かれている感覚なのだ。え、そこ?って感じ。

 帯に紹介されている「声」という詩。

過度に

音楽をあびたあとは

麻痺した耳を休めたい

インコの声が肩のあたりで

まだいきているの

と鳴く(後略)

 帯では「インコの声から……鳴く」だけが載っていて、いささかサイコスリラーのような印象だったが、前段の部分とその後を読むとまた印象が違う。子どもの頃に、間違って殺してしまった(どうやって?)、墓に埋めたはずのインコがまた語りかけてくるとのことだが、やっぱりちょっと怖い気がする。

 散文詩というべきか「山犬記」も印象的というか記憶に刻まれる。こんな出だし。

わたしはすりですが、すりであることを恥じてはおりません。とったものは返しません。これ、基本です。(後略)

 それなりにいろんな詩を読んできたけど、また違う。井坂さんのウィキペディアや詩集の自筆年譜を読んでみたって、作風に与えた影響に関する記述はない。祖父は作家は山手樹一郎さんだが、詩を書くってことに影響を与えた可能性はあるけど、詩自体はかなりオリジナリティーが強いとみた。。存命の方だし、まだ新たな文章に出合う可能性もあるかもしれない。まだ評伝はないのだろうか。

 たぶん、このハルキ文庫の69篇だって、代表作を集めているのだろう。でも、もうちょっと読んでみたいし知りたい。大きな書店に行った時に探してみよう。