文庫化されたのを機に読んだ。開高健ノンフィクション賞を受賞し、ドラマにもなっている「エンジェルフライト」も客死した人の遺体や遺骨を運ぶ「国際霊柩送還」を取り上げたが、こちらの「エンド・オブ・ライフ」も死に関わる話というか、訪問医療や家での看取りをテーマとしている。
ライターの佐々涼子さんは取材対象に相当に食い込むタイプだと読んだことがある。この本では、京都の渡辺西賀茂診療所の末期の患者を含む訪問医療が取材対象。しかし、話を聞くはずであったであろう看護師の方がすい臓がんに罹ってしまう。「看取りのプロ」がどのように自らの死に向かい合ったのかが書かれている。
話は、取材をはじめた2013年と18年、19年を行ったり来たりしながら進んでいく。加わってくるのが、佐々さん自身の、要介護5レベル(日常生活ほぼすべてに支援が必要)の母親と、家でその介護をする父親の話。図らずも、佐々さん自身の親が家庭での介護の現状をつまびらかにする。
家で死にたい人は多いのだろうか。正直、自分はまだイメージできていない。住宅ローンとか経済的な話はともかくとして、まだ体は動くし働ける。マンションのせいか、「家」という実感もあまりない。ただ「帰る場所」という気持ちはある。介護するとするならば対象は妻になるだろうか。もしくは介護される立場になってしまうのか。佐々さんの父親は、奥さんに向き合う態度といい、人柄と技術も含めて「達人レベル」ように読めたが、とてもその域に達するとは思えない。
若い時は、医療とはとにかく「生かすこと」と思っていたが、歳を取るにつれて(逆に)「いい死に方」もあるのだろうと思うようになってきた。数年前になるが、外国に住む知人(日本人)が安楽死を選択した時には思うところがあった。けど、すごくその人らしい選択とも言えるところがあって、それなりに納得させられた。まだ、その境地にはほど遠いが、あまり周りに迷惑をかけずに逝きたいという気持ちはある。しかし、そのような判断をできるような状態なのだろうか。この本には、亡くなった人を拍手で送る場面がある。頑張って生きてきた人には相応しいのかもしれないと思った。
記事を読んで知っていたが、佐々さん自身も悪性の脳腫瘍で闘病中とのこと。そのことについては昨年出た「夜明けを待つ」に書かれているそうだ。過去のルポやエッセーをまとめているが、「続編」と呼べる部分もあるという。もっと佐々作品を読みたいと思っている人間として、これが最後になってほしくない。