晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「駆け込み寺の男 玄秀盛」

 懐具合が寂しくなってくると、古本屋に足を運ぶ数が増える。結構サイクルが早くて、数カ月前に刊行されたばかりの本が見つかることもある(まだ高値だが)。そんなときに見つけたのが、この本である。この人はテレビで見たことあるな、と。ただ、それだけじゃ購入する気にならなかったはず。著者は、佐々涼子さんか。「紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている」は読んだことがあった。詳細は覚えていないが、東日本大震災で被災した日本製紙石巻工場の復旧への物語を書いた人である。読まされた記憶がある。合わせ技で買う事にした。

 2002年に「新宿救護センター」(現・日本駆け込み寺)を設立した玄秀盛さんの物語。佐々さんは、ここのメールマガジンの編集と執筆を担当していた。支援者にメールマガジンを有料購読してもらい、その費用を運営に充てる。佐々さん自身も、その後ノンフィクションライターになる原点が、この取材にあると書いている。ここに駆け込んできた人たちの相談を、彼がいかに解決してきたかを伝えるのである。

 場所柄と言うべきか、相談に来る人たちは、DVに苦しむ外国人女性、別れ話がこじれてストーカーに遭う女性、人探しなどさまざまである。それらの困りごとを、突き放したようにもとれる態度ながら、収めるところに収めていく。その数は3万人以上とされる。相談者全員が満足した結果を得ているとは思わない。相談者側にも落ち度がある場合は、それ相応に傷を負う必要もあるだろう。過去には、手を汚した時期もあり、大きな金を動かしていたこともあったそうだ。

 相談を受ける立場の人間は、話を丁寧に聞き、やさしく寄り添ってくれる人というイメージがあるが、彼は相談者に腹をくくらせて、次のステップに進むまでの伴走者という感じにとれる。そこまでは任せろと。

 著者は、彼の人生をさかのぼりながら、現在に至る経緯や考え方を割り出そうとする。在日韓国人であった出自や、親との関係などは大いに影響しているはず。単に、「強面だけど実はいい人」というとどまっていないところが、面白いところか。この時点から佐々さんの筆力が確かだったことがわかる一冊とも言える。