晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「四十一番の少年」

 帯に、「十二人の手紙」の次に読みたい衝撃作、と書いてあったので、素直に読んでみた。井上ひさしさん自身が、幼少の頃にカトリック系養護施設に入った経験がある。その意味では、自伝的作品と言えるだろう。作品に登場する「ナザレト・ホーム」では、収容順に入所者に洗濯番号がついていた。テレビ局で働いている橋本が久しぶりにホームを訪ねる。彼の番号は四十一番だった。そして、思い起こすのは十五番の少年。

新装版 四十一番の少年 (文春文庫)

新装版 四十一番の少年 (文春文庫)

 

  十五番の少年の名は、松尾。番号からしてホームでは橋本の先輩である。橋本は、著者同様、父とは死別したが母は生きている。しかし母を療養所いれるためには自分が孤児院に入るほかなかった。松尾は乱暴な性格でもあった。孤児である彼は、橋本が母の存在をうかがえるような行動をとると、容赦なく暴力をふるう。物語は、そのホーム時代を回顧したのがこの作品だ。

 松尾はある女学生に恋をする。その女学生の親は地元の新聞社を経営。ホームとは無縁なほど裕福だが慈善活動で訪ねることがありその存在を知っていた。松尾は手紙を送り、アプローチを図るが、女学生は卒業後に修道院に入ることを選択肢に入れているくらいの堅物。思いつめた松尾は、まとまった金があれば、自分の人生を変えられると信じてある行動を起こす。それは橋本と、野球がうまくなりたいと思う少年を巻き込む、とんでもない行動だった――。

 表題作のほかの2作品も、同じような境遇の少年を扱った「汚点(しみ)」「あくる朝の蝉」。ちょっと空いた時間に読み終えられるような分量。家飲みのおともにちょうどよかった。