晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「君たちはどう生きるか」

 現在公開中の映画ではなく、吉野源三郎著の書籍について。タイトルがあまりに説教じみているので、手に取る気にならなかったのだが、映画化されたことで読んでみることになった。映画化といっても、妻によると、原作とは似ても似つかないらしい。ネットでも別物だという記事を読んだ(通底している部分はあるかもしれないが)。つまり映画を見ても、この吉野著の本の内容はつかめないということ(少なくとも、話の筋は)。じゃあ、読むしかないなと腹をくくった。なんか、変な動機である。かといって、ジブリの熱心なファンでもないのだ。

 古典とも言えるし、累計で170万部も売れているのだから、ネタバレの部分があってもいいだろう。まず、主人公はコペル君(本田潤一)。銀行の重役だった父親はすでに亡くなっていて、お母さんと暮らしている。父の死後、女中さんの数を減らしたそうだから、それでも富裕層とみていいようだ。体は小さく、野球ではバントが得意な二番打者。大谷翔平選手と比べると、二番打者の役割で時代を感じる(1937年の作品)。勉強はできるとのこと。旧制中学の2年。探究心があり、感受性の強い子どもだ。同級生の友人には、いわば勇敢な子、コペル君の家よりもずっとお金持ちの子、豆腐屋さんの子どもがいる。

 メンター役と言おうか、コペル君を励ましたり、助言を与えてくれたりする存在に母の実弟である「叔父さん」がいる。コペル君が体験してきたことについて、叔父さんが手紙という形でコメントするスタイルで話は進んでいく。小説の体ではあるが、物語風の倫理の教科書みたいなものだ。

 かいつまんだ形になるが、物語として二つの山があるとすれば、豆腐屋さんの子(浦川君)が学校を休んでいて気になったコペル君が家を訪ねる「貧しき友」と、乱暴な上級生たちのいじめに対して、友人がやられているのにコペル君が尻込みをしてしまい、そのことを悔やむ、「雪の日の出来事」とそれに続く「石段の思い出」になるだろうか。

 どちらも昭和という時代を経験している人には、見たり聞いたりしてきた話であろう。しかし、この時代になってもこのような話が売れるのが不思議というか、人との関係が今よりも濃い時代で、かつ出来事もストレートなところがわかりやすいのだろうか。漫画や映画という形で触れても、本は読まれているかどうかが疑問に感じる。複雑になってきた今の時代の答えが、この本にあると信じて、もしくはヒントがあると思って購入した人が多いのではないか。でも、能動的なスタンスで事に望まない限りは、ヒント自体もつかめないのだろう。そんな気がした。