晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「古本道場」

 道場主の岡崎武志さんの指令の下、弟子の角田光代さんが古本屋を巡って、古書を探すという一種の古本及び読書ガイド。指令は、「鎌倉の古本屋に行って、鎌倉ゆかりの作家の本を探す」「早稲田で(角田さんの)青春時代の本を探す」といった感じだ。

 岡崎武志さんは本に関する著書が多い人で、やたらと本を読む人である。あ、逆か。角田さんは、ご存じの通りで小説家。申し訳ないことに、あまり代表作を読んでいないが、このような体験ルポものはいくつか読んでいる。ボクシングやグルメものだった。

 この本はどういうわけか、「無印良品」で買った。比較的広い店舗が近くにあって、食品や服のほかにライフスタイルがらみの本も置いている。散歩とか読書とか料理とか。書店とは違った枠で並んでいるのが、ながめていて楽しい。

 「古本道場」に戻るが、角田さんが指令を受けて、まず向かったのは神保町。ここはジャンル別に古本屋がある。普通の古本屋だって店主により「傾向」はあるけど、神保町はもっと「線引き」が明確だ。初めて行った時は、中国関連書や洋書だけで古書店が成り立つなんてと感動してしまった。その後、渋谷・代官山、中央線沿線の西荻窪、早稲田、鎌倉などを巡る。

 岡崎さんによると、古書店めぐりの心得があるという。

 ●「わたしはわたしの風邪をひく」

 一見、意味不明だが、自分の趣味・興味・関心を第1基準にせよということだ。

 ●「古本屋と新刊書店は別業種」

 新刊書店は返品できるが、古本屋は店主が購入したもの。乱暴な扱いは厳禁。

 ●「買いたいと思ったときに本はなし」

 古本は一期一会であるということ。悔しい思いをしたことがある。

 ●「古本ファッション」

 本を傷めない格好をせよ、ということ。濡れたコートをもちこまないなど。

 ●「万札は避けよ、小銭を用意」

 なるべく小銭を用意して、低い金額の本は小銭で買う。

 古本への愛もそうだが、本を選ぶ楽しさにあふれた本だ。驚いたのは、角田さんが早大に入った当時、丸山健二とか中上健次とかを読んだ事もなかったということ。この方は、幼少の頃から作家になると決めていて、早大にも小説家になる前段階として進んだと書いてあった。書く人が必ずしも読む人じゃなければいけない法はないが、いやいや驚いた。逆に純粋に書き手を目指したとも言えるか。しかし、自分の子どもと比べると、小さいときから進む道を決めているというのも立派な気がする。このルポの後に、角田さんは文学賞を受賞しているので、受賞後だったらこんな企画は成り立たなかっただろうとあとがきに書いてあった。そうだろうな。

 2005年に出た本で、文庫化は08年で、書店の情報は08年現在だ。鎌倉の古書店も随分魅力的に書かれていたが、その書店がまだ残っているかどうかが心配である。ブログのタイトルに「鎌」を入れている以上、確認の意味を込めて、古書店巡りをしてみたいと思った。銭湯もそうだが、書店がなくなっているのを確認するのは嫌なものだが……。