晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「増補 本屋になりたい」

 書店経営にあこがれながら、「せめてあと20年若ければ、やりたいなあ」という年齢に達してしまった(資金という別問題はあるが)。1年ほど前に毎日新聞社を辞めて書店を開業した元新聞記者の話を読んだが、彼は会社勤めの頃から計画的に準備してきた様子がうかがえた。

 この本は、大型書店勤務から沖縄・那覇市へ拠点を移して古書店を始めた宇田智子さんの体験記である。文庫版は増補として、7年分が加筆されている。宇田さんは一人書店、小規模書店のシンボル的な存在になっている。屋号は「市場の古本屋ウララ」だ。

 そもそもは、「日本一狭い古本屋」をキャッチフレーズにしていた店を引き継いだ。書いている自分も書店経営にあこがれた時期があった一人である。何の本か忘れてしまったが、かなりの肉体労働だと知って、当時腰痛持ちだった自分は具体的な行動を何一つ起こさないまま断念してしまった。ランニング習慣によって腰痛は抑え込んでいるが、もはやいい歳である。自分も、宇田さんは勇気がある人だと思っていたが、宇田さん曰く、「勇気よりも確信」することが大事だとのことだ。

 古本屋なので、客との売買のほかにも、市での仕入れなどもある。宇田さんは主に沖縄関連の本を中心に置いている。その他、自分が目利きとなり、「売れる」もしくは「読ませたい」本を売っているのだろう。確かに、古本屋であれば、新刊書店に比べて本人が売りたい本を自由に置くことが可能だ。確かに古本屋には、新刊書店にはないカラーがある(ブックオフなどの大型店は別として)。うちに一番近い店は美術系と神奈川県ものが充実している。割と顔を出すところは文藝&ミステリーという感じだ。そこらは古本経営の面白さの一つかもしれない。ちなみに沖縄県産の本の8割以上は沖縄県内で売れるそうである。

 書店は一つの商売には違いないだろうが、地域の文化的な拠点にもなりうるところがある。宇田さんも意識的に取材を受けたり、発信したりしている部分があるのかもしれないが、あとがきには「この場所でしか成立しない本屋になりたい」と書いてある。

 定年が近づき、といつつ勤め先は定年を65までの延長を決めた(待遇はそのままではないのだろう)。地域に爪痕のひとつでも残したいという気持ちが生じてきた自分には刺激的な読書となった。