ロンドンの古書店に勤める男性と、愛書家のニューヨーク在住の女性作家の手紙による交流をメインに据えられている。1949年からおよそ20年にわたるやりとり。著者はヘレーン・ハンフで、実名で登場。副題には「書物を愛する人のための本」とある。現在は増補版が出回っているらしいが、自分は古い版で読んだ。訳者の江藤淳さんが、「後日談も二度ほど発表された。(中略)やはりもとのままが最良と思われるので、敢えてそのような形をとった」とある。しかし、増補版があるとなると気になるものだ。
実際の出来事なのかどうかはわからない。まずは、ヘレーンさんが、タイトルにある住所に位置するマークス社にほしい書籍のリストを送る。現地(ニューヨーク)の古本屋には、高価な稀覯本か、学生の書き込みが入った本しかないと。これが1949年10月5日の手紙になっている。それに書店が3分の2ほど揃ったと返信するのが同月25日付。本を揃える日数も必要だったろうが、電子メールが当たり前の現在から見ると随分とのんびりしている。自分が子どもの頃もこんな感じだったのだが…。支払いも購入者があらかじめ多めに送っておいて、余った分は書店の方が次回のためにプールしておくような信用商売の時代だ。そういえばツケで飲んでいた時代もあったなと懐かしくなる。
やりとりを重ねるにつれて、呼称がフランクなものになり、季節の贈り物を届けるような関係になる。時代的に米が裕福でイギリスはそうでもなかったみたいなので、ヘレーンさんが書店のスタッフに送るのが常のなのだが。しかし乾燥卵というものがあったんだね。調べてみると、今もあるみたいだ。タマゴボーロは、乾燥卵の発想からできたお菓子なのだろうか。
と寄り道してしまったが、話の中心はもちろん書物。本の内容はもちろん、装丁などに話が及ぶ。日本ではあまり見かけないが、ペンギンブックスが古典作品を布装にして再刊行するのは、やはり装丁にこだわる人が多いからなのだろう。日本の、本の軽さや焼けにくい技術もいいが、日本でも村上春樹さんの本などを特装版で売ったら買う人が多いのでは。
またまた話がそれたが、最期はホロっとさせられるような展開。江藤さんは、ない方がいいと言っていたが、やはり後日談は気になるところ。これは立ち読みしに書店に行くしかない。