晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「古くてあたらしい仕事」

 続けて「ひとり出版社」がらみの本を読んだ。夏葉社というさわやかな名前の出版社を営んでいる島田潤一郎さんの、立ち上げから10年を書いた本となっている。2019年の初版発行から、自分が手にしているのは7刷。これまで自分のアンテナには引っ掛からなかったけど、結構売れているんだなあと思った。「古くてあたらしい仕事」はもちろん出版業のことだ。

 巻末にある夏葉社刊行の本を見て、センスがいいと思った。装丁やデザインにかかる経費を削って、読者に少しでも安く届けるというのもひとつの方法だろうが、装丁に和田誠さんなどを起用して、しっかり印象に残る一冊をつくるのも、ひとつの方策だろうと思った。年に3冊ほど作るのだという。編集はもちろん、営業、事務、発送作業、経理も自分でこなす。デザイナーと校正者にはそのつど仕事をお願いする。

 島田さんは起業するほかなかったという。経営者というタイプではない。目立ったキャリアや学歴もない。サラリーマンになろうにも、31歳で転職活動をした結果、採用してくれる会社もなかった。仕事をみつけられなかった時は、本を読んだり、DVDを借りてきたり。会社を起こしたもう一つの理由に、仲の良かった一歳上の従兄が事故で急逝したこともあった。27歳までは無職。作家になることを志望していたという。

 それで選んだのが出版社をはじめること。そのころから新しい形の出版社が登場してきていた。2009年9月に「夏葉社」を立ち上げた。みずみずしい名前だ。編集者経験はないが、教科書会社で働いていたことがあって営業の経験はあった。そして、島田さんの選択は、好きだった作家の本を復刊することだった。感受性の豊かさもあるのだろう。むかしの作家の作品には滋味というべきものがあるという。もちろん否定はしない。本や作家への愛が断然強いと感じる。そして、自分が欲しくなるような本をつくると決める。

 夏葉社の本は、定価2200円が多いとのこと。高すぎるとは思わないが、2000円を超えると少し尻込みするのは確かだ。一方で、和田さんをデザイナーにして、小さい出版社からそのくらいの値段で出して、利益が出るのかという気持ちもある。

 品揃えの妙で勝負している書店に本を置いてもらう。鎌倉なら、たらば書房やポルベニールブックストアも入るのだろうか。そういえば、横浜ってそういう書店が少ない気がする。こちらの活動範囲が根岸線沿いと狭いからか。大学の近くあたりにはいい書店がある気がするが。

 長々と書く気もないので、ここらでまとめるが、島田さんの人柄を感じるはやはり文章だ。作家を目指していたので上手なのはわからなくもないのが、力みを感じない、正直な文章だ。少なくとも自分には嘘をつかずに生きてきた気がする。今度は、夏葉社の本を通して島田さんと対話をしたい。