晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「空想居酒屋」

 食というのは、健康維持のため以上になると贅沢の部類に入っていくのかもしれないが、高級食材にはそもそも無縁だとしても、時節にあわせて旬のものをいただくのは、たとえちょっとしたものでも気持ちを豊かにさせる。

 この「空想居酒屋」。作家の島田雅彦さんが実に楽しんで書いている様子が伝わってくる。NHK出版のウェブマガジンの連載を一冊の本にまとめた。島田さんの飲み歩きのリポートで始まり、自分の理想の居酒屋を思い描いて行くのだが、途中でコロナ禍に突入し、その「思い」がぐんと強まっていくのを感じた。

空想居酒屋 (NHK出版新書 643)

空想居酒屋 (NHK出版新書 643)

  • 作者:島田 雅彦
  • 発売日: 2021/01/12
  • メディア: 新書
 

  最初に登場するのは、韓国の居酒屋。韓国のビールとソジュ(焼酎。チャミスル鏡月など)がいまいちと感じるのは同意する。韓国のビールは軽すぎて現地で飲む分にはまだいいのだが、物足りない。ソジュはどうもあの人工的な甘さが苦手である。韓国料理と合わせればまだアリだが、その点ではマッコリ(マッコルリ)の方が合うと思う。

 島田さんが触れているのは、韓国の酔いを軽くするといわれるヘジャンクッ。ヘジャンにはたぶん「解腸」の字があてられると思うのだが、いわゆる翌朝の状態を軽くする、締めのスープ。数種類あるが、全州(チョンジュ)の豆もやしのスープが有名だ(20年前は一杯300円程度だったが)。全州の料理は、小皿でたくさんでるのがよく知られている。個人的な感想だが、釜山(プサン)に比べると味がおさえめでぐっと上品に感じる。島田さんもお気に入りの様子だ。しかし韓国に行くと、このヘジャンクッで一杯飲んでいる人もいる。酔いと解腸、どちらが勝つのだろうか。

 東京が中心だが国内の魅力的な居酒屋、筆者が住んだことがあるイタリアや米国での食生活が紹介されている。いささか古い話だが、島田雅彦さんというと、金子國義さんの絵が表紙の「僕は模造人間」「ドンナ・アンナ」(いずれも新潮文庫)などを思い出す。当時は表紙に引っ張られたせいか、アーティスティックで取っつきづらい印象を持っていたが、いい感じで歳をとってきた気がする(年長なのに恐縮だが)。実は、初期の新潮文庫や福武文庫を読んだ程度で、島田雅彦さんの本を読んだのは、エッセイとはいえ、数十年ぶり。オペラなどに関心を広げていたのはわかっていたし、ワインが似合う容貌なので食への関心も高いだろうと思っていたが、ここまでとは思わなかった。凝り性のように見えるので、腕前もなかなかのものかもしれない。

 コロナ禍で方向転換を迫られた部分があろうかと思う。存分には出歩けない中、収束後の楽しみとして紹介された店をマークしておく。