晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「詩人の旅 増補新版」

 全集未収録なので、読んでみた。簡単に言ってしまえば、田村隆一はどこに向かおうが田村隆一である。読んだ感想としては、それを再確認したに過ぎない。帯にも〈ニホン酔夢行〉と書いてあるが、読み進めて頭に浮かんだのは、やはり「インド酔夢行」だ。目的地云々よりも、その行程が楽しい。

 寂しがり屋なのかもしれない(たぶんそうだ)。田村さんの旅って、誰かがついてきている。「インド酔夢行」の青年も登場してくる。誰か連れがいて、そのやりとりが魅力だ。そして、酒を飲む。いつものようなやり取りの中に、旅先の本質を見抜いたような描写があってそれが刺さるのだ。少し持ち上げすぎかも。

 向かった先は、隠岐、若狭、伊那、北海道の釧路、奥津、鹿児島、越前、越後、佐久、東京の浅草、京都、沖縄だ。いろいろなところを見ている割に、読んでいる方は田村隆一の印象しか残らない。

旅っていうのは別にかっこよく旅するんじゃない。人の力を認識するのが旅なんです。(中略)他者、the otherの力を確認するのがひとり旅の大きな魅力であって、自分ひとりだけでどうやって歩いて行くんですか、退屈しちゃいますよ。自分ひとりで身のまわりのものを持ちながら歩いていくところに、人の力、人のなさけがわかるところにひとり旅の大きな魅力がある。(「ぼくのひとり旅論」より)

 解釈の仕方によっては、人に迷惑をかけて、他人の力を確認するのが楽しいともとれる。でも、この人はそのようなことをサラッとやってのけて、かつ、恨みも買わない人なのである。なんか得な人なんだよなあ。