この本の存在を何で知ったのかは忘れてしまったが、タイトルからして読書がらみの小説であることは確かなようだし、200ページ程度の本ならすぐに読めるだろうというのが購入の理由だったと記憶する。著者のジャン=ポール・ディディエローランさんの存在は無論知らないが、この作品が長編デビューで、短編小説ですでに定評があったせいか、発売前から話題になっていたそうだ。36カ国で刊行。本国フランスではベストセラーになっているとか。
主人公ギレンはパリ郊外の断裁工場で働いている。本好きの人間が、本の墓場と言える断裁工場で働いているという設定が面白い。工場に残った処理しきれなかった(生き延びた)ページを持ち帰り、出勤時に電車内で朗読するのが日課だ。帰りは疲れ果てて、とても読む気になれないという。本の「死」に直面したばかりはそんな気持ちになれないかもしれない。
断裁工場で重傷を負った元同僚。彼はある本を偏愛しISBN番号まで覚えている。ギレンの「朗読」が気に入って、彼を自宅に招く老姉妹と、様々な本好きが現れてくる。ギレンはある日、日記が入ったメモリーを拾う。その内容がまた話を動かしていく——。
主人公ギレンの名前をもじった(フルネームで、ギレン・ヴィニョール)部分があり、登場人物はしきりに彼の名前を間違える。ここらへんは、面白味を味わいきれていないと思うが、それでも十分に話は面白い。
ネタバレは最小限にしておくが、それまでちょっと変わった話だと思っていたのが最後の数行が読後感をぐっと肯定的にさせる。作家の名前をしっかり覚えきれないまま、読み進めていたが、最後の最後に胸に刻み込まれた感じがした。