晴走雨読 横鎌日記

無理しないランニング(最近ちょっと無理している)と気ままな読書について綴ります。横浜と鎌倉が中心。映画やお出かけもあり

「ストーカーとの七〇〇日戦争」

 この本の中にも「人の不幸は蜜の味」なんて表現が出てきていたが、それが面白いわけではない。まあ、そのような一面もあるかもしれないが。「世界屠畜紀行」「飼い食い」で知られる内澤旬子が記したストーカー体験。実際の被害者が自ら綴っただけに、そこらの新聞記事よりはぐぐっと真に迫った話で、かつ書き手の力量のせいか、読み物としても上出来のルポとなっている。最初の方はサイコスリラーに近い部分もあるくらい。ストーカー被害のきっかけ、被害届、示談、損害賠償、加害者心理、公判、防止策などに触れている。警察や弁護士(加害側も含む)、検察の対応も書き込まれている。ここまで網羅した本はなかったのでないか。

ストーカーとの七〇〇日戦争

ストーカーとの七〇〇日戦争

 

  説得力につながっているのは、たぶん、内澤氏の対応というか初動の〝まずさ〟なのではと思う。責めているわけではなく(最良の道を示せるわけでもなく)、誰もがストーカー被害に完璧に対処できるわけではない。むしろ焦りや恐怖から、ぎくしゃくした対応をしてしまうのではないか。内澤氏にもそんなところが見て取れるし、弁護士の対応(熱量?)によっては振り回されるのも当たり前だ。

 内澤氏は小豆島に移住し、ヤギのカヨとその息子タメと暮らし、狩猟免許を取得して、地元の獣害について取材をしていた。内澤氏を知る読者は、彼女らしいと思うはず。ネットで知り合った(ヤフー・パートナー)男性と交際して8カ月。自分でも一旦嫌だと思うと手のひらを返したような態度にでるとは書いているが、島の外に住む相手が遊びに来たいというのを多忙を理由に拒否したところ、電話が鳴りやまなくなった。執拗なLINEも。警察に届けたところ、相手は警察にファイルされている人間だった。しかも偽名であることも判明。

 そして逮捕。生活安全課や刑事課の対応、弁護士、検察と出てきて、司法プロセスの解説を受けている気もしてくる。加害者側の弁護士は示談を仕掛けてくる。加害者は思い込みなのか、戦術なのか、問題をすり替えてきている。そして、示談の違反でもあるが、2ちゃんねるで内澤氏を攻撃する。内澤氏もこの問題を書くと心に決める。定点観測ルポというべきか、この手は内澤氏は得意とするところと見た。ただ、被害者になってまで、書きたいテーマではなかったはずだ。

 週刊文春で連載されていた。加害者は、内澤氏が知られた存在であることから、「週刊文春」にネタを流すぞなどとも恫喝していたらしいが、返す刀で文春に書かれてしまうとは。これは文春側が「やり手」なのかもしれない。単に被害側の恐怖や、警察、弁護士などの対応への問題提起にとどまらず、ストーカーを「病」として対策を促す好著になっている。読まされました。