晴走雨読 横鎌日記

無理しないランニングと気ままな読書について綴ります。横浜と鎌倉が中心。映画やお出かけもあり

「ありがとう、トニ・エルドマン」

 父親というものは、とかく娘のこととなるとくどくなったり、力が入りすぎたりすることがある。家庭や父娘(おやこ)関係によってもさまざまだろうが、この「ありがとう、トニ・エルドマン」に登場する父親のコミットの具合が尋常ではない。それでこそ、映画なわけなのだが。

 監督は1976年生のマーレン・アデ。いまどき女性ならではなんて言葉は、お叱りを受けそうだが、男性の監督(もちろんその人次第)だったらもっとドタバタにしたかもしれないが、過去にも人間関係を描いた作品を撮っているだけあって、抑制がありながらもそれが次の笑いに繋がる作りになっている(ように思える)。

 カンヌでは、ケン・ローチ「わたしは、ダニエル・ブレイク」にパルム・ドールを持っていかれている、本作もなかなかのもの。日本の配給会社は、ジャック・ニコルソンがリメイクを決めたというのを宣伝材料にしているが、もっとアピールするところがあるはずだ。確かに地味な部類に入る映画からも知れないが……。

 教師のヴィンフリート(ペーター・ジモニシェック)は悪ふざけが好き。愛犬の死をきっかけに、ブタペストで働くイネス(ザンドラ・ヒュラー)を訪ねる。コンサルタント会社に勤めるイネスはいわゆるキャリア・ウーマン。ブタペストで彼女に会った、ヴィンフリートは彼女がハッピーだと思えない。いったん、帰ったふりした父親は、トニ・エルドマンとなって、彼女の出先に現れる。

 出っ歯とカツラでの変装が現実的でもありながら、映画なんだから、もうちょっと極端であってもいいと思わせるところ(ものまね芸人が明石家さんまをまねるように)なのだが、そのしつこさを考えるとそれで良かったかも知れない。

 この噛み合わない父娘が、トラブルに遭うたび、正確には父親がトラブルを起こすたびに、関係が近くなってくる。イネスがホイットニー・ヒューストンが歌った「Greatest Love of All」を歌うシーンがハイライトか。ラブソングではなく、自分を鼓舞する歌であることがわかって、映画のテーマとシンクロすることがわかる。ヨーロッパ映画に抵抗感がない人なら面白いはず。ドイツ語圏の映画をほとんど見ないせいか、監督や俳優の印象が弱いため、逆に作品としては強く印象に残った。