晴走雨読 横鎌日記

無理しないランニング(最近ちょっと無理している)と気ままな読書について綴ります。横浜と鎌倉が中心。映画やお出かけもあり

「藻屑蟹」

 ニュースサイトでこの作家の存在を知った。赤松利市。除染作業員を経て、作家になった。すでに60歳超。若いころには年収が2千万円を超えていた時期もあったが、仕事も家庭もダメになり、東日本大震災後は土木作業員、除染作業員をして生計をたてた。サイトの記事は新刊のパブリシティみたいなものだったが、興味は最近文庫化された「藻屑蟹(もくずがに)」。第一回大薮春彦新人賞受賞作だ。帰宅時に買い求め、その後、ほぼ没頭。ランニング中に「ここらで切り上げて続きを読もうか」って気分にさせられることはあまりない。そのくらい気になっていた。

藻屑蟹 (徳間文庫)

藻屑蟹 (徳間文庫)

 

  「藻屑蟹」から5章から成る。新人賞の対象になったのは第1章。受賞後に残りを加筆したのだろうか。震災から6年後。福島県内のC市でパチンコ店の店長をしていた木島は、かつての同級生から除染の現場で働こうと誘われる。木島は、金が夢に出てくるほど、執着は強い。ろくに仕事もしないでパチンコ店にやってくる、補償金で潤った〝避難民〟を見ていると腹立たしくなる。現場に作業員を送り込み、中間搾取している同級生の誘いに応じることにする。

 郡山や福島、仙台と実在の地名で出てくるとなると、C市とはどこだろう。原発からは南相馬と逆側だと書いてあるが、素直にとると、単純にいわき市かなと思いつつ、C(シー)だから、白河市かなとも思った。福島県に住んだことがあるから気になるところか。サイトのインタビューでも、この作品について「ほんまにあったことだから書いた」と言っているので、C市も実在するのではと勘繰った次第だ。

 脱線してしまった。木島は働きに行った先で原発労働者として長く務めた高橋に出会う。高橋の体はもはや放射線でボロボロ。しかしながら原発愛は強く、木島に葬ってほしいと頼む。同級生の純也はそれすらも金にしようとする――。

 「〇〇賞受賞」「平成最後の新人」などとやたらと惹句がついてまわる作家はうさんくさいと防御線が勝手に張られるのだが、むしろ興味を持って書店をめぐり、この本にたどりついた。自分が福島出身で避難者の書かれ方が気になったからかもしれない。確かに宮城県と福島の原発の周辺の違いは、「震災後」と「震災中」というところだろう。去年暮れに田舎に寄ってみたが、人よりも行き交うトラックの数の方がはるかに多い印象だった。富岡から乗ったバスでは、窓を開けることを禁じられ、それもそのはず東京電力発電所の近くを通ると、放射能がぐんと上がる(バス内に表示が出る)。

 またまた作品に戻ると、1章の出来は本当に素晴らしく、昔読んだ名編と呼ばれる作品のようにスキッと読ませる。プロの読み手ではないが、「上手い」と思ったのは久々である。2章以降は、1章ほどではないが、それでも話を上手に転がしている。主人公が覚醒していく感があって、もしかしたら書き手の生活の状態が、主人公の在り方をポジティブにしたのではと思った。

 「鯖」とか「らんちう」とか題名も魅力的。次の作品も文庫化されたら必ず読むぞと決めてしまった。赤松氏は月に40~50冊も本を読むというのだから立派なものだ。執筆にも日15時間、月に400ページも仕上げるそうである。今は、書ける喜びをかみしめているのかもしれない。遅いデビューだった分、どんどん書いてほしいものだ。