晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「酒味酒菜」

 東日本大震災から10年。被災者を家族に持つ者としては、相当の本を扱うべきだとも思ったが、講談社刊「福島第一原発の真実」は大著で読み終えるどころか、まだ手をつけていない。片山夏子「ふくしま原発作業員日誌」は読んでいる最中。で、郷土の詩人の本を取り上げることにした。草野心平さんの食に関するエッセイだ。別に企画ものでも何でもないけど、このタイミングで読了したということ。

 震災後、いろいろな人がテレビや新聞に取り上げられて、福島にも結構文化人がいるものだと妙に感心したのだが、昔からさすがにこの人は知っていた。野口英世草野心平くらいしかいないのじゃないかと思っていたくらいだ。草野さんは宮沢賢治の存在を世に広めたことで知られる。

酒味酒菜 (中公文庫)

酒味酒菜 (中公文庫)

 

  詩だけでは食べられなかったので、居酒屋「火の車」を経営していたことでも知られる。現在のいわき市小川町出身。磐越東線で少し上にあがったところだ。いままで読んだ食に関するエッセイとはかなり毛色が違う。草野さんが貧乏だったとか、時代が違うという要素もあるが、かなり自然に密着している。

 川魚くらいでは驚かないが、野ばらの花をサンドイッチにして食べたり、クチナシウイスキーのつまみにしたと書いてある。パンに置いてかぶりつくのだろうか。そのほか、花びらを二杯酢にするとか、コンソメに浮かすとか。

 山菜や馬肉、あけび、山椒魚、酒……。そんなものまで食べちゃうのってものも含んでいるが、この本自体が、酒の肴になりそうな話がたくさん詰まっている。福島や山形の豊かな自然が前提になる話が多い。生きていたら、この状況を嘆きながら一杯やっていたかもしれない。詩集はどこかにあったはず。読んでみようか。