晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

bookcafe フルハウス

 原発事故で実家がなくなって「帰省」という言葉が当てはまるかどうかわからないが、親が近隣の施設にいるのだからそう呼んじゃってもいいだろう。実際、周りにはそう話しているし、故郷とは場所より気持ちの方が優先すると思っている。

 今回の帰省で、機会があれば行きたいと思っていたのが、作家の柳美里さんが東日本大震災後に鎌倉から南相馬市小高に転居して、2018年から始めた書店「フルハウス」である(翌年からブックカフェに)。常磐線のいわきー原ノ町間は電車の本数が少ないうえに、予約した宿とは逆方向。18歳あたりまで浪江に住んでいたが、小高で下車したことがない。当時は友人が住む町の駅か、浪江よりも栄えている原町市(現・南相馬市)くらいしか行かなかった(行かないと買えない物があった)。ちなみに行政的には「原町」だったのだが、駅名は「原ノ町」なのである。

bookcafe フルハウスの入り口

 施設に入った親との面会時間にはまだ制限があり、時間はある。しかし交通の便が悪い。電車の本数は少ないし、バスも浪江を境に運営会社が違うらしい。宿に行く電車を考えると1時間ほどしか小高にはいれない。この機会を逃すといつここに来られるかはわからない。滞在時間は短くてもいいから、「フルハウス」に行ってみる事にした。宿には3時間ほどチェックインが遅れることを伝えた。

 下りた事のない小高駅。でも現状において、浪江や富岡、大熊に比べて、少しばかり街が生きている気がした。たぶん駅で大勢の学生さんを見たのが理由の一つ。いわきあたりならともかく、いわゆる相双地区に入ってこんなに学生を見たのは初めてだ。もちろん、所詮田舎なので、駅を下りるとほぼ人はいない。リュックを背負ったせいか、よそ者だとすぐに分かるのだろう。声をかけられたり、会釈されたり。

 「フルハウス」は駅からまっすぐ。たぶん5分もかかっていないだろう。結構いい場所じゃない、柳美里さん。ちなみに僕は新宿ゴールデン街で彼女をみたことがあるが、当然彼女は僕を知らない。しかし、神奈川から浜通りに転居した彼女に対して、浜通りから神奈川に移住した自分。無理やりだが、ちょっとした縁を感じる。作品はいくつか読んでいるが、特別にファンだということはない。

 食事をする時間はなさそう。入ると、自分の趣味に合うだけなんだろうけど、選書がいいなと感じた。かつ奥にのれんで仕切った部屋がありそこにも本がある。お、思ったよりも棚が多い。もっとこぢんまりしていると思ってた。浜通りというのは高層の建物が少ないせいか、すごく太陽が近く感じるのだ。天気のいい日に食事しながら、本を読めたら、時間が止まっているように感じられるだろうなと思った。

 柳さんはいなかったが(気づかなかっただけ?)、俵万智さんや最相葉月さんや和合亮一さんの色紙やサイン本が並ぶ。ファンにはたまらないだろうなあと思いつつ、自分も何か買っていきたいと思う。大型書店やネットで買える本ばかりとも言えるが、ここには作家が一筆添えた本が置いてある(すべてではないだろう。外国作家の本もあるし)。

 何がいいか。小高は震災直後に一時的に住民がゼロになったところでもある(と書いてあった)。自分の中で東日本大震災はまだ続いているので(続いているのは主に原発事故)、やっぱり震災がテーマになった本を買っていこうと思った。で、仙台市在住の佐伯一麦さんの「空にみずうみ」を選んだ。小山田浩子さんが解説を書いているのが、後押しした気もする。

 今回の帰省で気づいたのは、横浜からでも忙しないが日帰りが可能なところである。一泊するにしても小高に旅館があることも発見した(双葉屋旅館!)。街が生きている気がしたというのは、どこか攻めている店舗が他にもあるのも理由だ。今度は、もっとゆっくりさせてもらおうか。こちらに住んでいた時には見向きもしなかった小高だが、やや面白い場所になりつつあると思った。

 帰りに、ワンマン電車の整理券の場所を教えてくれた学生さん(切符の販売機がなかった)。彼女が電車の待ち時間に読んでいたのは、深緑野分さんの本。単行本だったので図書室(図書館)から借りた本かもしれないが(「この本を盗む者は」だったと思う)、町に本屋があるないの差はこんなところに出てくるのかもしれないと思った。