晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「世界は経営でできている」

 同じ講談社現代新書ながら別な本を買いに行ってこの本を買ってしまった。実は、宮嵜麻子「ローマ帝国の誕生」の購入を予定したのだが、(よくある話なのだが)レジに持っていったのは、この岩尾俊兵「世界は経営でできている」。「ローマ」が思ったより高かったのと(結局、数日後に購入)、この「経営」がどうやら話題になっているようなので、こちらを選んだ。

 この本でも触れているが「経営」が「金儲け」を指しているのなら、たぶん買わなかったと思う。お金は大事だし、できればたくさん欲しいと思っているけど、宮仕えとして「売る方」よりは「作る方」の部門が長かったため、「自分には向かない」程度の苦手意識を持っている。もちろん「売れる物を作っている」つもりではいたのだが。

 この本での「経営」は「価値創造」を目的にしてそのために思案し、実現のために行動して、豊かな共同体をつくりあげるということである(はしょりすぎか?)。その意味では、あらゆる人があらゆる分野で、それなりに「経営」をしていることになるが、それに気づいていない人も多い。「貧乏」「家庭」「恋愛」……といった15の分野に「~でできている」をつけた章立てで、本来の経営概念に立ち返って、個人も社会も、日本も世界も、豊かにしようという本である。

 すべてのパートが、本人の言う「令和冷笑系文体」で書かれている。この文体自体をあまり上手に説明できないが、最近ブログでもよく読む、時には自虐的なギャグも交えたシニカルな文章とでも言おうか。出てくる例は、それとなく出会ったことがあるような話が多く「刺さる」部分もある。著者が生まれたときには、すでに社会人だった自分からすれば、「演出」が過剰なような気がするが、本をもじったタイトルも多くて、その強引なもじり方に笑ってしまう部分もある。やや軽薄に書いてはいるものの、相当の読書量と人生経験に支えられた内容である(たぶん)。

 ウィキペディアレベルの知識だが、著者は、佐賀の岩尾磁器工業の一族だが、父親の事業の失敗で高校進学を断念して、中卒で自衛隊に入り、退職後はバイトをしながらいわゆる大検を受けて慶大に入学。東大で博士号を取得して、現在は慶大の准教授だそうである。子どもの頃から論語を読まされていたというのは、わかるような気がしている。

 一種の啓蒙書かもしれないし、これまでそのような類いの本を読んでこなかったからかも知れないが、新鮮味を感じているのも事実。ここでの「経営」とは一種のセルフマネージメントでは、と思ったりもしているし、場面場面で物事を俯瞰してみる力というのは大事だろう。参考文献はまさしく参考になった。読書欲をそそられた一冊になった。