晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心にお出かけもあり。銭湯通いにはまっています

対談「小川哲の頭の中」小川哲 × 呉勝浩

 日月と二日続けて読書のイベント。月曜は、東京近郊の書店の団体・悠々会の主催の「BOOK MEETS NEXT」の一環で、一昨年の村田沙耶香さんと西加奈子さんの対談と同じ企画に参加(無料)。そういえば、昨年は誰だったのだろうと思いつつ、今回は小川哲さんと呉勝浩さんの対談だ。タイトルからいくと小川さんがメインだが、プライベートでも付き合いがある呉さんが話す時間も長く比重としてはほぼ五分五分の持ち時間。しかし、キャラ的に「いじられる」呉さんがそれとなく小川さんを引き立てていて、タイトルに偽りない形に落ち着いたように見えた。

呉勝浩さん(左)と小川哲さん。紀伊国屋ホールにて

 現在、小川哲さんの「噓と正典」を読んでいるところ。このイベントに申し込んで急遽読み始めたのだが、それまで二人の作品は未読だった。二人ともデビューが2015年だが、講談社のPR誌「IN★POCKET」を時折読んでいたので、講談社から本を出していた呉さんを知ったのが先で、ミステリーが主戦場などと作風はそれとなく把握していたつもり。一方の、小川哲さんについては、失礼ながら名前がシンプルすぎるのか、賞の候補になった時に絶対に活字で見ているはずなのにあまり印象になかった。しかし直木賞受賞など、ここ数年の存在感はすごくて、「小川哲」の名が目に入ってくる感じになってきた。

 出会いは、二人が吉川英治文学新人賞の最終候補5人に残り、結局落選してそれぞれ残念会を開いていたのだが、小川さんのグループが呉さんのグループに合流したのが始まりだという。初対面の小川さんは呉さんに「呉さんは5位で、僕は2位(3位?)」と選考過程で先に外れた呉さんをいじったのが始まりだという。なかなか失礼なヤツと思いつつ、「合流を受け入れた時点でそのくらいは大丈夫と感じた」というようなことを小川さんは話していた。出会いってそんなものかもしれない。その後、オンライン上などで読書会などを開く仲になっているとのことだ。

 呉さんが作家になったのは、ウィキペディアにも書いているが勤務中にサボって焼き肉を食べていたことがきっかけだが、そもそも映画を作りたかったのと(大阪芸大の映像学科卒)、本はよく読んでいて、仕事がなくなって家にあったのはパソコンだけだったということだ。講談社の「メフィスト賞」を狙いで書き始めたとのこと。だが、受賞したのは、同じ講談社の「江戸川乱歩賞」を受賞。

 小川さんは東大を出て同大の研究職についていたが、大学の将来に不安を感じて作家に転じた。ハヤカワのSFコンテストに応募して大賞を受賞。詳細は忘れたが、デビューのために受賞しやすい賞などをきちんと検討してアプローチしている。話を聞いていても理詰めで聡明な印象を与える。が、理屈や論理だけで世の中が動いていないのもしっかり分かっていると呉さんは評していた。

 小川さんが「活字で一冊を読み終えるのはぜいたく」を話していたのが印象的。書店団体主催の読書がテーマのイベントだし、ご自身も作家なので当然の発言かもしれないが、どこか救われた気持ちになるのは、日々やっていることを肯定された気になったからかもしれない。(たぶん)手始めにどんなミステリー作家を読んだらいいかとの、事前に参加者からもらった質問に答えて、先日亡くなった西澤保彦さんの名を挙げていたのも記憶に残った。

 それぞれの新作が10月に刊行されている。呉勝浩さんは「アトミック・ブレイバー」(光文社)でSFだそうだ。小川哲さんのは12月にNHKで放映予定のドラマ(?)の原作「火星の女王」(早川書房)。