晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心にお出かけもあり。銭湯通いにはまっています

「詩の力」

 吉本隆明さんが現代詩、短歌や俳句を読解する、ちょっとした入門書やガイドになっている。吉本さんの読者ではないが、一番取っつきやすい本の一つではないだろうか。古本屋で見つけて思わず購入した。かけそばだって400円くらいする時代になってきた中で、これを250円で読めたのはうれしい。その評論が、詩だけではなく、なんと宇多田ヒカル中島みゆき松任谷由実といったアーティストのの歌詞にも及んでいる。吉本隆明宇多田ヒカル。一見食べ合わせが悪そうだが、吉本さんは宇多田さんが15歳の時に発表した「Automatic」の歌詞をすごく評価していた。

 詩人はだいたい分かる人ばかりだが、歌人俳人になると、この本で教わった人も少なくない。やはり日本の現代詩において、谷川俊太郎さんは別格なのだなあと実感する。吉本さんは多彩さを評価して、「詩のジャンル全般に取り組んでいて高い技術で優れた作品を書くことができる詩人は珍しいし、現在では他に見当たらない」と書いている。作品が多く、文庫などでも楽しめるので、その存在の「ありがたみ」が薄くなってきているが、もう90代。この人と同時代を生きているのは感謝しかない。

 谷川さんの次に出てくるのは田村隆一さん。言葉の選択力が強い、と書いている。書かれた当人がどう思うのかは別として、吉本さんは時に、それぞれの詩人を短い言葉で表す。茨木のり子さんを、言葉で書いているのではなくて人格そのもので書いていると評した。これもわかるような気がしている。

 俵万智さんについては、「サラダ記念日」が多くの読者の心を捉えた理由を、「この歌人が自分を特別な人間とは思っていない点だと思う」と書いている。非常に自然体だというのだ。吉増剛造さんは、意味を伝えようとしているのはなく、詩の価値を無限大にしたいという欲求があるだけだという。

 中島みゆきさんと松任谷由実さんの比較では、中島さんの歌が都市が超都市に変わっていくことへ不安があるのに対し、ユーミンの歌は都市が変わっていく感性を肯定しているように感じると書いている。

 名のある人だけを例に出したが、永瀬清子さん、入沢康夫さん、塚本邦雄さんなど、名前だけ知っていて読んでいない詩人についても、基礎知識が備わったような気持ちになった。もともとは新聞の連載だったのだろうか。吉本さんを平易な言葉で読めてうれしかった。良い本に出会った。