晴走雨読 横鎌日記

無理しないランニング(最近ちょっと無理している)と気ままな読書について綴ります。横浜と鎌倉が中心。映画やお出かけもあり

「さよなら妖精」

 米澤穂信「王とサーカス」「真実の10メートル手前」を読んで、主人公・太刀洗万智という存在を知った。手に取るのはほぼ一年後になったが、このキャラクターが初登場する「さよなら妖精」を読むのは、自分にとってほぼ必然だった。端的に言えば、書いた米澤穂信氏を含め、このキャラが気に入ったからである。しかし、自分の中でフリージャーナリストになっている太刀洗が、ここでは高校生(のちに進学)。そんな大掛かりな事件に出くわすわけでもない。未読だが、この作家には学校を舞台にした作品も多い。自分のように「王とサーカス」あたりから作品に触れた読者に、この「さよなら妖精」は彼の過去の作品への橋渡し役になるような存在になり得る。遡るように読んでいるのは自分だけかもしれないが。

さよなら妖精 (創元推理文庫)

さよなら妖精 (創元推理文庫)

 

  人口10万人規模の市の高校に通う太刀洗ら学生たちが、ユーゴスラヴィアから来た少女マーヤに出会う。二カ月の滞在予定。しかし受け入れてくれるはずの人が死んでしまったという。しかも一人暮らしで家族がいない。ちなみにこの作品。語り手は太刀洗の同級生の守屋で、太刀洗インパクトの強いキーマン的な登場人物にとどまっている。

 いかにも習ってきたような文語風の日本語を話すマーヤと高校生たちが日常的な謎(疑問)を解く形で話は進んでいく。時はユーゴ紛争が起きて、国を形成する共和国が独立宣言をする1991~92年だ。ユーゴは彼らにとってはピンとこない国にだったのだろうが、マーヤがきっかけで国情を知ることになる。ネタバレになりそうなのでこれ以上は触れない。過去にこんな本は読んだことないぞと新鮮な気持ちにさせられた。いまでは分離しているが、ユーゴという国を持ってくることによって、学園もので終わりそうな話がグンとスケールアップしている。日本の片田舎の学生である以上、それ以上に踏み込めない場所はあるのだが、それはそれで現実的で、作品としてバランスがきちんととれている。

 殺人などの事件物の刺激的な話よりもずしっとくるものがある作品だった。当面、木村元彦氏のいわゆるユーゴ3部作の横に並べておこうかと思っている。