晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「ミラクル・クリーク」

 米国に住む韓国系作家の本を読むのは、たぶん初めて。韓国系移民を扱った映画「ミナリ」を見たせいなのか、移民の話の部分がややくどく感じたが、小さい時に米国に渡ったアンジー・キムさんにとっても最初の長編作品だし、自身のルーツを交えたパートは織り込みたいところなのだろう。法廷を舞台にしたミステリーに、移民の感情、障がいを持つ親の心理などをからめた作品になっている。米ミステリー界の権威であるエドガー賞の最優秀新人賞、国際スリラー作家協会新人賞、ストランド・マガジン批評家賞新人賞と、新人三冠を達成した。著者自身も弁護士である。

  話は、韓国から移ってきた家族が経営する高気圧酸素治療施設の火災から始まる。酸素に引火したせいで、施設の利用者や経営側にも死傷者が出る。施設には、酸素治療にすがる自閉症の子を持つ親などが治療に訪れていた。当局は放火とみて、母親の一人を被告とする。状況もそうでありながら、動機として自閉症の子ヘンリーへの虐待や「いなくなればいい」との発言があったとの噂だ。

 経営者で家族の世帯主であるユーは火災で半身不随。裁判は事故からほぼ1年後にスタート。傍目には被害者だが、保険金が入り帰国を計画していたことが明らかになる。それでいて、この施設や治療法がうさんくさいとして、反対運動をしていたグループの存在もある。施設への出資者やユーの家族、治療に通わせていた別の親など、様々な人間たちが自分の立場から、小さな嘘を重ねたり、本当のことを言えなかったり。弁護士や検事もそれらの立場に沿って、情報を取捨選択してくる。ここらは妙に生々しい。さすが弁護士。ちなみに高気圧酸素治療も、著者の子どもの難病治療でその存在を知ったという。まさに自分の人生をまとめたような作品となっている。

 特徴的なのは、心理描写か。被告となった母親だって、将来への不安からネガティブな行動に出ることもあるだろうし、移民のユーだって、言葉のコンプレックスや、父親としての責任感などで揺れ動いている。彼の妻、娘や周辺の人々に焦点が当てられていく。

 たぶん、今回は盛り込むところを盛り込んできたのだろう。次はどのような話を書くのか。やはり法廷を舞台にした作品になるのだろうか。アンジー・キム、名前を覚えておく。