チケットを購入した昨年末は、コロナ禍が落ち着いた時期。新橋演舞場や歌舞伎座でも新春興行は行われているが、国立劇場の「南総里見八犬伝」を選ぶのには迷いがなかった。観劇の日が近づくにつれて、感染者数が増えて気が重くなってきたが、購入したチケットだって安くはない。足を運ぶことにした。
NHKの人形劇「新八犬伝」を見ていた世代。それでいて、いわゆる古典で最初から最後まで読んだのは、この「南総里見八犬伝」だけじゃないだろうか。内容も詳細はおぼろげだが、字の詰まった二段組みか三段組みの本を読んだ記憶がある。とにかく覚えているのは「仁義礼智忠信孝悌」のフレーズである。
今回、久しぶりに歌舞伎でも見て筋でも思い出そうと思ったのだが、この物語はいかんせん長い。歌舞伎としては、休憩時間を除くとおよそ2時間半程度。どういう話かは思い出したが、歌舞伎としてはぶつ切りで細部は思い出せなかった。「新八犬伝」は犬塚信乃を中心にえがかれていると記憶していたが、さてどうだったか。いまさらながら、伏姫の「伏」が「人」と「犬」と知らされて感心しているほどである。当時は子どもだったせいか、その「伏」線には気づかなかった。
さて公演だが、新春らしく華やかだった。この長い話を短くまとめるのは演出的にも大変だったと想像する。最後には、悪いやつをやっつけて、八人そろって見得を切って締めるとは思っていたが、どうしても話が飛んで唐突感が生じてしまう。まあ、それはしょうがないだろう。
尾上菊五郎、菊之助などと、とにかく出演者が多い。新春公演ならではというところか。ドローンを飛ばしたりと「遊び」もあり、アクションシーンもやたらとあった。なんか、久しぶりに面白い2時間ドラマを見たような満足感を得た。いいなあ歌舞伎も、そんな気持ちにさせられた。