晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心にお出かけもあり。銭湯通いにはまっています

「四隣人の食卓」

 ク・ビョンモさんの本を読みたいと思い、代表作の「破果」を読むつもりだったが、原書で読むので短い作品で試運転をしておこうと思い「四隣人の食卓」から読んだ。この小説は近未来ディストピア小説と言えるが、現実と実情がさほど離れていない。むしろ現状からやや想像を膨らませただけなのが、かえって現実味を与えている気がしている。

 出生率の低い韓国政府主導で「夢未来実験共同住宅」が実施された。入居の条件のメインは居住10年間に第3子までもうけること。他に付随する条件もある。煩雑な書類審査にも関わらず240組の応募があった。話は、タイトルから想像できるとおり、実験から1年経って4組目の世帯が入居してきたことから始まる(書影は書肆侃侃房刊の日本語版〈小山内園子訳〉。原書とデザインはほぼ一緒)。

  同じ目的で同質の家族が集まったようにも見えるが、当然それぞれ別で仕事も収入も違う。家庭内だってそれは同じ。共同住宅の場所は公共交通機関が使えるところからは遠く仕事先にギリギリ通えるようなところに位置しているで、子どもたちについては在宅の者が一緒に見ることにする。うまくいっているうちはいいが、それぞれの家庭が自分の子どもを中心に考えると、これも火だねになっていく。夫婦間、男女間の問題と合わせて、ネガティブな要素が蓄積していく――。

 韓国小説が翻訳がかなり増えてきて、ク・ビョンモ作品も、この「四隣人の食卓」を含めて3作(アンソロジーはのぞく)が訳されているようだが、あまり評判を聞かない。自分がアンテナを張っていないだけかもしれないが、読んでみるとかなり面白いし、もうちょっと評判になってもいいような気がしている。

 作風でいうと、桐野夏生さんに近いのではないか。「OUT」や「グロテスク」あたりを読んだ程度の読者だが、社会性という点で共通点があるような気がしている。もっともク・ビョンモさんを画像検索したら桐野さんと雰囲気が似ていたということに引っ張られているだけかもしない。

 韓国語力を錆びつかせないために原書で読んでみたが、日頃日本語の漢字表記に相当助けられていると実感した。母語だからということもあるが、文章を読むときに漢字を拾って流れをとらえているところがあるのではないか。カタカナもそうだ。カタカナがくると外来語かなと頭が準備してくれる。文章を読む上でかなり脳の負担を減らしてくれていると思った。韓国語は表音文字なので、外来語も似たような字面になるのでとまどうのだ。作品が面白かったので心地よい疲れではあったが、ハードルが高い。これは慣れるものなのか。

 それはともかく、ク・ビョンモさんは「お気に入り」に登録しておく。