晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「ポピーのためにできること」

 700ページの本を読んだ。「ポピーのためにできること」(原題:The Appeal)に夢中にさせられた。面白い本というのはリモート勤務の大敵である。会社には申し訳ないが半分過ぎあたりからはほぼ一気に読ませてもらった(もちろん、埋め合わせはしている)。本作はジャニス・ハレットという英国人作家のデビュー作。長編を読むだけの体力を引き出してもらった気がしている。

 洋書コーナーで知った作品だ。日本の洋書店もしくは洋書コーナーは、日本で公開された映画原作や話題の小説、年末のミステリ作品ランキングの上位などの原書を平積みにしていることが多い。「The Appeal」もそのような扱いだった。原書で挑戦という気にもなったが、英文の解釈にとらわれて作品自体を楽しめないと話にならないので、翻訳をさがしたら、こんなタイトル。結びつかなかったなあ。

 さて、この作品はいわば「記録」から成っている。メール、メッセージ、新聞記事、調書などだ。弁護士事務所の上司が、二人の司法実務修習生に課題として資料を与える。大量のメールやメッセージ。それが、そのまま作家から読者への「挑戦状」にもとれるようになっている。こちらもメールやメッセージを読みながら、事の推移を追っていく。

 登場人物がやたら多いので名前はできるだけ省く。アマチュア劇団を主宰する地元の名士が、孫(ポピー)が難病を患っていると劇団員に伝える。治療費は高額だという。劇団員(看護師も含む)は支援のためのボランティアイベントを組織しはじめる。男女間の仲や、家族、劇団員や病院関係者の過去が絡み、とうとう悲劇が起きる。

 読み手は、メールやメッセージで話の筋を知ることになる。メールなどは、すでに相手と共有している情報についてわざわざ書かないことも多いし、故意、思い込みも含めて間違った情報だってある。こんな話あった?っという情報も不意に現れたりもする。そして、いわば裁判の資料なので、収集できなかったメールなどもある。登場するメールやメッセージがすべてではないのである。

 登場人物やメールの日付あたりは見失いそうになるが、司法実務修習生同士のチャットが、読者の理解を整理させる一方で、惑わせたりもする。彼らだって、事を正確に捉えているわけではない。彼らの「迷い」に読者もつきあうこともあるだろう。

 翻訳者は山田蘭さん。アンソニーホロヴィッツ作品などを訳している人だ。メールと言えども、個人の特徴はでる。文体などを訳し分けるのは大変だったのではないか。それはともかく堪能させてもらった。満足。