晴走雨読 横鎌日記

無理しないランニング(最近ちょっと無理している)と気ままな読書について綴ります。横浜と鎌倉が中心。映画やお出かけもあり

「穴あきエフの初恋祭り」

 復活した全米図書賞の翻訳部門で受賞した、多和田葉子「献灯使」の文庫本が書店で平積みになっているのを見ると、ちょっと感慨深い。知る人ぞ知る作家だが、過去には作品によって文庫化されないことあった。いまでは講談社文芸文庫あたりが文庫にしてくれているが、この文庫はもはや単行本なみの値段。アマゾンで見ると、文庫化されていない過去の作品の値段が半端ない。

 昨年秋に短編集「穴あきエフの初恋祭り」が刊行。たぶん文藝春秋から出すのは初めてではないか。ほぼ多和田葉子ファンと言ってもいいが、文芸誌に掲載されたものから読むほどではない。「文学界」に作品が掲載された時には気になっていたので、ここでまとめて読めるのはうれしい。今年から読み始めて最初に読了した本となった。

穴あきエフの初恋祭り

穴あきエフの初恋祭り

 

   2009年から18年にかけて「文学界」に発表された7篇が並ぶ。どこに連れていかれるのだろうか、という気持ちにさせられながら読む。それでいて、どこに言葉遊びを入れてくるのか、を期待しながら読む。もしかしたら作家本人が意図していないのを、こちらが勝手に言葉遊びと解釈しているところもあるかもしれない。

 「胡蝶、カリフォルニアに舞う」(文学界2018年7月号)では、ヤマトタッケル(タケル)の「タケル」とご飯の「炊ける」をかけたり、「ミス転換の不思議な赤」の「ミス転換」(同2014年3月号)は、ミス(女性)とてんかん(発作)をかけているのかとこちら側で勝手に勘繰ったりと、本筋と別なところで(いやいや、ストーリーを暗示する形で?)いろいろと楽しませてくれる。タイトルの「穴あきエフの初恋祭り」(同2011年1月号)も、話の舞台がロシアのようなので、「穴あきエフ」はやはり「アナ―キエフ」という人名なのか、そこに「アナーキー」にまでかけているのかと「深読み」させられてしまう。勘繰りすぎなのかもしれないが、それはそれで楽しい。

 ほかに、「文通」(同2018年1月号)、「鼻の虫」(同2012年2月号)、「てんてんはんそく」(同2010年2月号)、「おと・どけ・もの」(同2009年1月号)。