晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「文学こそ最高の教養である」前編

 仰々しいタイトルに気圧されて敬遠していたのだが、kindleunlimitedで無料だったので(月会費は払っているが)読んでみた。光文社古典新訳文庫の編集者の駒井稔さんが、各翻訳者に話を聞くという体裁になっていて、いわばプロモーションイベントを活字化した本である。フランス、ドイツ、英米もの、ロシア、その他(日本・アフリカ・ギリシア)と分かれているので、前編は、仏独に絞ることにする。書店でもみたが、新書としては厚手の本だ。

 近年の実学重視を逆手に取ったタイトルなので意表を突いている気もするものの、著者自身も「文学がすぐには役に立ちません」と書いている。だからこそ、教養だとも言えるのかもしれない。逆に「教養」が強調されても、どうかなって気もする。

 この本を kindleunlimited で読んだと書いたが、kindleunlimited のラインナップに多いのが、光文社古典新訳文庫である(履歴でやたらとあらわれる)。アマゾンが買い取っているのか、光文社側がプロモーションの一部とみなしているのかはわからないが、読み手としては悪い話ではない。しかも、この「文学こそ最強」を読んで、興味を持った本が「読み放題」に入っているのでお得感もある。Prime の値段と合わせるとお手頃とは言い難いところはあるが。

 さて、本編に入る。これは本好きしか読まない本だとは思う(「教養」にだまされる人もいるかも)。作者の魅力、過去の訳と比べた新訳の狙い、訳者自身についてを知ったり、かつ文学史(作品および邦訳の流れ)を俯瞰できたりと、収穫は大きい。まずは、野崎歓訳「マノン・レスコー」。オペラになったものは、話が単純だろうと毛嫌いしてきたが、駒井さんと野崎さんの対談を読む限り、結構面白そうなのである。恋愛ものでありながら、フランス革命以前の事情を垣間見る事ができて、かつ「悪女」について、考えることができるという。

 次は、中条省平さんが語る、ロブ=グリエ「消しゴム」。実は、積読されているのだが、読まなくていいのかなと思った。とはいえ、この作品が一番読みやすいとか。この項では、近現代のフランス思想の流れがつかめた気がしている(すぐに忘れる)。

 谷口亜沙子さんによる、フローベール「三つの物語」は読む事に決めた(ダウンロード済み)。プラン内で読めるし、こちらは「三つの物語」を読んだときにでも書こう。プルースト失われた時を求めて」を訳している高遠弘美さんは、石川淳、住大夫と共通のひいきがあることがわかった。日本における、プルースト訳の流れも興味深い。読む事があるかどうかはわからないが(昔、井上究一郎訳を持っていたが手放した)、少しかじっておきたいなと思ってしまった。

 ドイツ編は、トーマス・マンショーペンハウアー光文社古典新訳文庫は文学の他、哲学系が充実している。しかもドイツもの。マンを訳しているのは、岸美光さん。完全にノーマークだった、「だまされた女/すげかえられた首」の存在を教えてもらった。「ベニスで死す」(新訳文庫では「ヴェネツィアに死す」)とともに、「エロス三部作」だそうである。

 ショーペンハウアーについては鈴木芳子さんが書いているが、皮肉屋ぶりがたまらない。非常に裕福な家庭に生まれて「商才」もあった人らしい。1年半くらい前に、梅田孝太「今を生きる思想 ショーペンハウアー」を読んで分かった気になっていたが、やはりもっと「○○について」を読むべきか。古本でもいいから読んでみよう。

 後日、英米文学、ロシア文学、その他(日本・アフリカ・ギリシア)について書く。