晴走雨読 横鎌日記

気ままな読書と無理しないランニングについて綴ります。横浜と鎌倉を中心に映画やお出かけもあり。ここのところ、行動範囲が限られています

「焼野まで」

 大辞林によると「焼野(やけの)」には二通りの意味がある。①早春、野焼きをしたあとの野原。②大規模な火災などのため、焼け果てて荒れている所。やけのがはら。

 この小説は、東日本大震災の直後に子宮体がんが見つかった村田喜代子さん自身の体験がもとになっている。福島で起きた原発事故で放射能汚染が騒がれている一方、自分は九州で放射線治療をしている――。作家は「(題名の)『焼野』というのは私の中では、地球が生まれる熱が噴き出す火山地帯なんです。それに子宮も宇宙と呼応するものですよね。この小っちゃな体の中のがん細胞をきっかけに、地球から宇宙までを見通す視点を持てたら、書く喜びはあるなと思った」と刊行当時に産経新聞のインタビューに語っている。

焼野まで (朝日文庫)

焼野まで (朝日文庫)

 

  主人公は、子宮体がんがみつかり九州最南端の町にウィークリーマンションを借りて、放射線治療をしている。照射には宿酔のような症状が伴い、つらい。治療法を巡って、娘とは対立。心臓に難のある夫よりも同じくがんの男友達の方に気を許しているように見える。同じく治療で訪れている人たちを、○○がんの○○さんと言うように認識してしまう。病のつらさ、死に対する恐れが書かれている一方で、どこかユーモラスで、状況をポジティブにとらえられるような文章もある。闘病記などという言葉が向かない本だなと思った。しっかりと小説になっている。

 30代、40代には同僚たちががんで亡くなることがよくあった。近年、あまり葬儀に行かなくなった。家族葬で済ます人が多くなったからかもしれない。会社の張り出しを見ても、すでに済んでいることが多くなった。同年代、年下の連中が先に逝くのを見届けるのは、もちろん嫌な気分である。そろそろ、まずは病で、自分にもご指名がかかる気もするが、現段階ではそれなりに健康だと思っている。がんになっても狼狽えまいと常々思っていたが、しっかり怖がりながら、向かっていくしかないと一読してそう思った。

縦横無尽の文章レッスン

縦横無尽の文章レッスン

 

  この作家の本は他に2冊積読中だが、読んだのは初めて。かなり小説は出しているが、文庫化されているのが思いのほか少ない。すっきりとした文章。年齢を重ねることで具合がよくなってきたのかどうかは過去の作品を読んでいないのでよくわからない。ただ文章教室のような本を出しているようなので、文章には定評のある作家なのかもしれない。もうちょっと読んでみたいと思った。こういう作品を気に入るって、いまさらながら、歳をとったのかもなとも感じる。